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それは。だけど。てゆうか。
何にも言えなくて、意味もなく目だけキョロキョロしちゃって。答えなんか書いてないうちのダイニングに、藤野の長いため息が響いた。
「医者に、話聞いてもらってるだけだよ、あたし。友達にも親にも言いたくないこと、吐き出せる場所だと思っていいよって、言われたから」
「そっか……」
友達にも親にも。そう聞いて、なんだか息苦しくなった。藤野はもしかして、家でもニコニコしてなきゃなんないのかな。
「あたしのこと、痛いやつだと思ってるでしょ」
「思ってないよ」
「嘘つき」
「びっくりは、したけどさ」
元気なやつだと、思ってたよ、今まで。みんなと同じように。
ごめん。
悩みのないやつなんて、いるわけないんだよな。
「すごいじゃん。藤野めっちゃ、がんばってんじゃん」
謝るかわりに、思ったことを素直に伝えたら。
「吉友なんか、モブのくせに……生意気」
その言い草にはさすがに、モヤっとしたけど。
顔を押さえてうつむいた藤野の肩が、震えてて。この小さい肩に、いっぱいいっぱい、いろんなものが乗っかってるんだと思ったら、しょぼいモヤモヤなんか消えてしまった。
気の利いたことは、何にも言えなかったけど。
おそるおそる伸ばした手は結局、藤野のふわふわの髪の毛には触れなかったけど。
たぶんそれでよかったんだって、今は思ってる。
それから藤野は、放課後ときどき、家に来るようになったんだ。
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