4.

1/3
前へ
/10ページ
次へ

4.

 人間、恥を晒した相手には、とことん図々しくなれるものらしい。  最近の藤野は、当たり前みたいに俺の部屋に上がり込み、勝手に暖房をつけて、毒を吐いたりクッションを殴ったり、カルピスを飲みながら漫画を読んだりしている。  無表情、ときどき、舌打ち。時により、大荒れ。  話しかけてもすごい塩な返事しかないから、話なんかほとんどしない。一時間くらい居て、気が済んだらぺこりと謎のお辞儀をして、帰っていく。  それで翌日には、別人みたいに教室でニコニコしているんだ。「癒し系」なんていう、偽りのポジションで。 「そろそろ帰ったら?」  嵐がおさまった頃合いを見計らって、俺が声をかけたら。本棚の漫画を物色していた藤野は、無表情で振り向いた。 「は?」 「うちの母親も帰ってくるし」 「へー」 「鉢合わせたら嫌だろ?」 「別に? てゆうかこないだ玄関の前で会ったし」 「え」 「マサキと仲良くしてくれてありがとう、って言われたよ」 「マジか」  それ絶対誤解されてるだろ。俺と藤野は付き合ってるわけじゃないし、仲良くもないし、下手したら友達でもなくて。藤野にとって俺は、「王様の耳はロバの耳ー!!」ができる井戸、みたいなもん。もしくはそれ以下の、井戸の管理人? なのに。 「……ふぅん」  俺の困惑に、藤野は口をへの字に歪めた。 「あたしと仲良くしてると思われたら、嫌なんだ?」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加