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Ⅴ
ピンポーン。翌日、チャイムがなると、俺は急いで扉を開けた。そこには、予想通りに昴が立っている。
「こんにちは」
彼はいつものように、頭を下げる。それに、俺も挨拶した。
「こんにちは」
そう返された昴は、驚いたように顔を上げ、まじまじと俺を見る。それに苦笑した。
「そんなに見んなよ。……ごめん、昴。お前のこと、色々言ってさ」
彼はしばらく沈黙し、そのあとゆっくり言った。
「宗太くん、思い出したの?」
「ああ、思い出した」
俺が答えると、
「やったあ!」
昴が歓声を上げた。
「大袈裟だな」
「思い出してくれた!」
喜ぶ昴に、俺は言う。
「どうしてだろう、思い出せなかったんだ。お前や、理穂ちゃんたちのこと。まるで、」
そう、まるでーー。
「記憶が盗まれたみたいにさ」
遠くに見える山が、綺麗な緑色だ。ああ、こんなに美しい景色だったのか。俺は今まで、なにを見てたんだろう。
「ははっ」
笑い声が聞こえた。視線を向けると、昴が笑っている。昔からの癖毛を上下させて、俺に言った。
「なんか、面白い表現だね」
「だろ」
「あはは」
「……あのさ、昴」
「なに?」
「あのさ」
「だから、なに?」
「……」
昴が真っ直ぐ、こっちを見つめる。
「俺の身にあったことと、理穂ちゃんが経験したことを、話してもいいか」
答えは、間髪いれずに返ってきた。
「うん、いいよ。そのかわり、僕の話も聞いてね」
ああきっと俺は、俺たちは、これからやり直していくんだ。
朝とも昼とも言えない十時の光が、山のてっぺんで溶けていく。それは、俺たちを照らす、希望の光だ。
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