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Ⅱ
「マジかよ……」
独り暮らしの部屋に、朝とも昼とも言えない十時の光が入ってくる。そうすると、薄暗い室内の散らかりっぷりが露になる。
机に置いてあるデスクワーク用のパソコンから目を離し、天井を仰いだ。かなり遅くに起きたはずなのに、目のしぱしぱする感覚が消えない。
昨夜、家に帰ったあとは、ソファに寄りかかって眠った。目が覚めてからはパソコンに向かい続けだ。
『アンドロイド 襲ってくる』
適当に検索ワードを入れると、数百のサイトがヒットする。その中から吟味したのが、今見ているサイトだ。そこに書かれている内容に、眩暈のする思いだった。
非公認の組織が、心を持つアンドロイドを産み出そうとしたことがある。そして作ることができたのは一体のみ。それすらも失敗作で、彼らの試みは結局実現しなかった。失敗作は闇サイトで売りに出され、色々なところを転々としたまま行方知らず。そのアンドロイドの特徴は。
名前、R,S。黒髪で、目は赤。十七、八歳くらいの女性の見た目を持つ。
俺は呻く。昨日拾ってきたあれは、間違いなくそのアンドロイドだろう。なぜ、うちの近所のゴミ捨て場にあったのかわからないが、とにかく間違いない。
さらに、R,Sには注意書がついていた。
「この商品は、人間の心を持つアンドロイドであり、使用目的は多数。
起動するためには、目の光に触れる。また、シャットダウンする際にはもう一度目に触れる。再起動したい場合には、手に触れる。
ただし、実験の失敗作であるため、なんの脈絡もなく周囲の人間に襲いかかる危険がある。また、同じ理由で、シャットダウンがうまくいかない、いきなり起動する、など様々な危険がある。
尚、この商品には、人間の体の一部を使用している」
ずらずら並べ立てられる注意事項には、思い当たる部分が多すぎる。確かにいきなり襲われたし、急にスイッチが切れて動かなくなった。
昨夜拾ってきたアンドロイドーーR,Sは、今は、アパートのゴミ捨て場の脇にある、掃除用具入れに入れてある。けれど、この説明を読む限りは、いつ起動してもおかしくないだろう。そう思ったら、神経がいくらあっても足りない気がした。
まったく、とんだ厄日だった、と息を吐く。会社をクビになった上に、危険でしかないようなロボットを拾うなんて。
会社に暇を言い渡されることは、この町に来てからそう珍しいことでもない。親と大喧嘩をして東京の実家を離れ、この田舎に住みはじめて半年。片っ端から求人を探し、試験を受けたが、半分も採用にはならなかった。なんとか入れた会社も、二週間と持たずにはねられる。実家から持ってきたなけなしの自分のお金も、そろそろ底をつこうとしていた。
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