2/2
前へ
/7ページ
次へ
 そのとき、パソコンの上げる唸りの他になんの音もなかった室内に、けたたましいチャイムが鳴り響いた。 「はーい」  のろのろと玄関へ向かい、扉を開ける。そして、眉間に皺を刻んだ。 「こんにちは」 「……また、お前かよ」  扉の前に立つ人物に、ため息を禁じ得ない。 「あのさ、人んちに何回訪ねてくりゃ気が済むの? 俺も、暇じゃないんだけど」  適当に嘘を吐く。本当のところを言うと、ものすごく暇だ。けれど、こいつ相手に会社をクビになったことなんて話したくもない。  俺の態度はものすごく悪いと思うのに、彼は表情ひとつ変えずに笑って言った。 「いや、だって、諦められないんだもん」  なにが、諦められない、だよ。俺のことを、ろくに知りもしないくせに。  下野昴。この町で唯一、俺と年が同じ人間。しかも、彼も俺と同じように、ここに越してきてから一年と経っていない、言わば同類だ。けれど、俺としては気に食わない。  一人になるために、こんな遠くまで来たのに。 「俺たち、いい友達になれると思わない? 同い年だし、びっくりすることに、同郷だしさ」 「東京なんて場所によって全然違うだろ。同郷とは言っても、同じような人間だとは思われたくない」  言い返しても、彼は笑っている。敵意と毒気のない、素直な笑み。それでも、好きになれなかった。 「うるさいな!」  気がつくと、叫んでいる。昨夜と同じで、力ない声だった。 「俺に関わんなっていってんだよ。失せろ」  思いきり扉を閉め、彼を玄関先に残したまま、パソコンに向かう。早く、次の求人を探さなければ。仮に求人が見つかっても、採用試験に合格するかはわからないんだから。こんなことをしている時間が無駄だった。  パソコンの画面には、R,Sの注意書がうつっている。それを閉じ、検索ワードを入力し始めた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加