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「理穂ちゃん」  俺が呼ぶと、彼女は振り替える。黒い髪が、肩にかかる程度まで垂れている。 「わあ、宗太くん。こんなところで会えるなんて」 「ね、偶然だね」 「昴くんに、色々言われそうだね」  あははっと、二人で声を合わせて笑う。  最初は、平和だった。昴くんと俺と理穂ちゃんの三人で、ただただ楽しく遊ぶ毎日。ずっと続くと思っていた。  すべてが崩壊してしまったのは、小学三年生の夏。 「あのね、宗太くん、昴くん」  いつもよりも少し上擦った声でそう言う理穂ちゃんに、昴くんと揃って首をかしげると、彼女は言いにくそうに唇をすぼめて話し出した。 「私……。大阪に行くんだ」 「え!」  横の昴くんが、すっとんきょうな声を上げる。俺も、声こそ出さないものの、内心では動揺の色が濃い。  それに、理穂ちゃんが慌てたように付け足した。 「あ、お父さんの転勤でね。お父さんの仕事場が、大阪の方にあるんだって」 「いつ、戻ってくるの?」  今度は俺が尋ねる。理穂ちゃんは視線を自身の手に落とし、寂しげに俯いた。 「ごめんね、もう会えないんだ。戻ってくることは、ないんだって」 「……思いもしなかった。ずっと一緒だと思ってた、僕たち」  昴くんが、どこか悔しそうに唇を噛む。そのあと、大声で泣き出した。 「行かないでよ、理穂ちゃん。行かないでよ……」 「そうだよ。理穂ちゃんだけでも、ここにいて」 「ごめんね、本当にごめんね……」  家が隣だった俺たちは、理穂ちゃんが大阪に行ったことで、引き裂かれてしまった。理穂ちゃんがいなくなると、自然と昴くんと話すこともなくなり、中学には男子校を選らんで遠くへ行ってしまった彼とは、もうそれっきり、連絡を取ることがないままだった。  ガタガタ、パソコンをいじり、ひっきりなしに検索をかける。皮肉なことに、求人を探しているうちに、パソコン操作はお手の物になっていた。  一通り調べ終わると、パソコンの電源を切り、ふーっと息を吐き、そばに置いていたお茶のカップに口をつける。  杉村理穂の父親は、大学の教授をやる傍らで、心を持つアンドロイド製作を行っていた。非公認の組織。彼は最初のうち東京で仕事をしていたが、手狭になり、広い物件がある大阪に引っ越した。そこで研究を重ね、八年の年月を経て、ついに目的のアンドロイドの製作方法を発見した。  すでにいる人間の肉体を改造することで、それは実現した。その場合出来上がったアンドロイドが持つ心は、人間の頃と同じらしい。  そして彼はそれを、娘の体を使うことによって成し遂げた。娘の体を改造し、ついに出来上がったアンドロイドだったが、それは失敗作となる。失敗したことで、彼の製作計画も打ち切りとなった。
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