正々堂々泥棒

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 が、その立ち振る舞いは、泥棒らしからぬ正々堂々としたものであった。それはもう文句のつけようがないくらいに。胸を張って、次々と他人のものを盗んでいく。  僕はふと疑問を投げかけた。 「あんたはなぜ、正々堂々と泥棒をしてるんだ?」 「うしろめたくないからです。ものを盗むって、どうしてもやましい気持ちになりますから。ですが、こうやって正々堂々と盗めば、多少は気も楽になるというものです。それと、ピッキングなどをするための道具を用意する必要もございません。節約にもなります」  正々堂々泥棒は盗む手をとめずに答えた。確かに、さも当然であるかのような雰囲気を醸しだしている。ぜんぜんうしろ暗さを感じさせない。  おかしな理屈のはずだが、正論のように思えてくる。 「そういうものなのか。言われてみれば、被害にあっている僕も憤りを覚えていない。なんでだろう」 「正々堂々と盗みを働くヤツはいない、という常識が思考を混乱させているのかもしれませんね」
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