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ケールは涙で腫らした顔をあげ、ロマネスの服をぎゅっと掴んだ。
「お姉ちゃんがエシャルットの!? それじゃあ本物のエシャルットはどうしたの!?」
「……亡くなったわ。数年前に」
ロマネスの言葉にケールは膝を落とし、服を掴んでいた手からは力が抜けその場に座り込んだ。
「それじゃあ、ママのお話はずっと終わりを迎えられないんだ……。あんなに一生懸命書いていたのに……。ママ……」
悲しみに暮れていた先ほどの涙とは違い、ケールの涙は落胆と絶望の色をしていた。
震えながら泣き続けるケールの肩を優しく叩いてから、ロマネスは机の上の原稿用紙を手に取った。
目を通していくと、紙の上では壮大な物語が繰り広げられていた。
胸がハラハラする冒険、涙が溢れてくる人間模様、心が洗われる情景描写。
知らず知らずのうちにロマネスはその世界に引き込まれ、雪が降る窓辺で物語の中に入り込んでいた。
「……お姉ちゃん、ありがとう。せっかく来てくれたのに悪いけど、エシャルットが死んじゃったならもうどうしようもないね」
いつの間にか泣き止んだケールの声でロマネスは我にかえった。
泣き顔のケールを前にロマネスはしばらくの間唇を噛み締めていたが、意を決して口を開いた。
「ケール……。私ね、お父さんから泥棒の技術や知識を全部教えてもらっているの」
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