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「だけど、ケールがここにいるわ」
「僕はお話なんか書けないよ! 文字だってまだうまく書けないのに!」
ロマネスはケールを強く抱きしめた。
「毎晩ベッドの中でお母さんのお話を聞いていたんでしょう? 今は書けなくてもきっといつか書けるようになるよ。だから私たちが勝手にお母さんの物語を終わらせてはいけない。お母さんの物語はケールの物語になって、これからもずっと続いていくことができるんだから」
胸の中で震えるケールの背中をさすりながら、ロマネスは続ける。
「エンドマークは盗めないけど、ケール、あなたの抱えている絶望を盗んであげる。時間がかかっても、今日からきっと、前を向いて歩き出せる様に」
「……それなら、この悲しい気持ちも盗んでよ……!」
「ううん。ケール、悲しい気持ちを盗んでしまったら、お母さんへの思いも薄れてしまうわ。大切な誰かを思う気持ちは大切にしておくものよ。悲しみは忘れるものじゃなくて、向き合うものなの。だからそれは、ケール、あなたにしかできないことなのよ」
ロマネスの言葉に、ケールはしばらく黙っていたがやがてゆっくりと頷いた。
泣き止んだケールはロマネスの背中に手を回し、ぎゅっと強く、優しく抱きしめる。
「ありがとう。本当に、エシャルットに盗めないものはないんだね……」
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