ジプソフィルの花模様

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「本当に盗めたかな? 実はこれが私の初仕事なんだ」  ロマネスは照れ隠しで笑いながら答えると、ケールは驚いて顔を上げた。 「私ね、はじめは泥棒っていう仕事が嫌いだったの。お父さんは世の中をよくする正義の泥棒って言われていたけど、それでも、やっぱり泥棒は泥棒でしょ? だから嫌いだった。  それにお父さんが亡くなった後、何通も依頼の手紙が届いたけどどれも自分のために盗みをしてほしいというものばかりだった。お父さんは自分のために何かを盗んだことなんて一度もなかったのに、いつからか世界はそれを歪めてしまっていたんだと思ってすごく悲しかったの。お父さんの気持ちを台無しにされた気がして……」  窓の外ではしんしんと雪が降り続けている。 「いつしか手紙も届かなくなって、もうそれでいいと思ってた。  だけど、ケールの手紙を読んだらね、自分のためじゃなくて誰かのためにっていう気持ちが伝わってきた。うまく文字が書けなくたって、気持ちを伝えることはできるんだよ。ケールのお陰で、私はお父さんの気持ちを受け継いで泥棒をしていこうと思えたの。  でも、たとえ悪い人からでも何かを盗むのはやっぱり好きじゃない。だからね、私は困っている人たちが抱えている絶望や落ち込み、そういう目に見えないものを盗んでいこうって決めたんだ。そうやって、やり方は少し違うけどお父さんみたいに世の中をよくしていこうって。  だからね、ケール。お礼を言うのは私の方。私の気持ちに気が付かせてくれたから。ありがとうケール。きっとケールなら素敵な物語を綴っていけるよ」  遠くの教会で鐘が鳴り響く。  キラキラと輝く子供たちの笑い声と雪の白さが混ざってノエルの夜を彩っていく。  ロマネスとケールは互いに涙を拭って笑い合う。  そしてその笑顔もまた、雪の降る祝福の夜空に溶け合っていった。
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