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翌日の新聞にはエシャルットからの犯行完了の知らせが掲載された。
『エンドマークをいただく代わりに、確かにいただきました。
エシャルット』
今までエシャルットはこの様な曖昧な予告や犯行完了の知らせを出したことがなかった。
そのため、いつどこで犯行が行われるのか、何を盗まれるのか誰にもわからずに、エシャルットのかつての犯行歴から身に覚えのあるものたちは自分が標的にされるのではないかと恐れた。
その後もエシャルットは曖昧な犯行予告を出し続けた。
まるで眠っていた正義の大泥棒が再び動き始めたかの様に。
ある銀行は再び金庫が破られるのだと、厳戒な警備体制の敷きながらも悪質な投資商品や金利を見直し利用者への便宜を図った。
ある企業は労働環境の見直しを図り、労働者たちが安心して働き暮らしていける様に制度を整えていった。
ある政治家は自らの汚職の証拠をできるだけ隠滅する様指示しながらも、その後はできるだけ国民の声を反映した公正な政治を心掛けた。
他にも人々は皆誰かのために誠実になり始め、町は少しずつ活気を取り戻していった。
再び国中にジプソフィルの白く可憐な花が咲き始めた。
エシャルット・ロマネスは何も盗んでいないのに、世の中を良くするというその目的を達成したのだ。
やはりエシャルットに盗めないものは何もない。
そう言われはじめてからもう何年も経った頃、町の本屋には母から子へと受け継がれた大人気の物語の新作を子供たちがこぞって買いに訪れていた。
世界から盗むものがなくなります様に。
そう願いを込め、今日もエシャルットは正義の泥棒を続けている。
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