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少女は困惑した。
肝心な本のタイトルが雪に濡れたせいで滲んで読めなかったからだ。
暖炉に当てて手紙を乾かしたり、光で透かしてみたりしたがどうしてもタイトル部分がわからない。
少女は暖炉の前の安楽椅子に揺られながら頭を捻った。
どうしたらこの手紙の主の願いを叶えることができるだろうか。
そもそも自分はエシャルットではない。
頭を抱えながら何かいい知恵が浮かばないかと暖炉の炎を見つめていると、写真立ての中で微笑む父と目が合った。
そこから少女の頭の中で次々に計画が練られていった。
まずは手紙の主、ケールを探し出すことだ。
それからかつてのエシャルットの犯行通りに予告を出し、それからそれから……。
手始めに少女は新聞社に予告状を送りつけた。
それも小さな地方紙に。
封筒に貼られていた切手がこの地方にしか売られていないものだったからだ。
地方紙の記者は初めはいたずらだと思い相手にしなかったが、ベテランの編集長が予告状の入っていた封筒のジプソフィルの花模様を見て慌てふためいた。
「今すぐこの予告状を一面にした号外を印刷するんだ!」
その日、国中が大騒ぎになった。
数年ぶりのエシャルットの予告状に人々は湧きあがった。
だが、肝心の何を盗もうとしているのかがわからない。
そもそも盗めるものなのか。
予告状にはこう記してあった。
『エンドマークを頂きに参ります
エシャルット』
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