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ケールは一冊の本を少女に手渡した。
その本は本屋で少年が読んでいたものと同じだった。
「この本をお母さんが書いたの? すごいじゃない! 私だって知ってる大人気の本よ!」
少女はやや興奮気味に叫ぶと、いつの間にか椅子に座っていたケールが再び泣きそうな顔をしているのに気がついた。
「ママはいつもここに座ってお話を書いてたんだ。ベッドの中で僕に色々な話をしてくれて、それで、僕が喜ぶのを見てそれをお話にして……」
ケールの声は涙で濡れていたが、瞳だけは強がっていた。
「これがママが最後に書いたお話。もう最後まで書いてあって、エンドマークも入ってる。だけど、『続』なんだ。……もう誰もこの続きを書くことなんてできないのに! だからせめて、エシャルットにエンドマークを盗んでもらって『了』にしてもらえればママのお話も終わらせることができると思って……!」
ケールの涙がポタポタと原稿用紙に垂れた。
文字が滲まない様にケールは急いで袖で涙を拭く。
きっとこの原稿用紙がケールにとって最も大切なものなのだろうと思うと、少女は胸が締め付けられる思いだった。
「ケール、そういえばまだ、私の名前を名乗ってなかったね。私の名前はね、エシャルット・ロマネス。エシャルットと呼ばれた世紀の大泥棒、エシャルット・ビートの娘なの」
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