手紙泥棒

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 そうやって村上は今まで数々のなにかを盗んできたが、犯人だと疑われたことは一度もなく、むしろ「村上くんがそんなことをするはずがない」と、犯人候補から除外されるくらい物静かで狡猾だった。  そんな彼が今、せっせと盗んでいるのは──手紙である。  大人になってからの新しい発見とでもいうのか。とにかく村上は手紙を盗み読むことを、日々の糧としている。幼い頃は盗んだ相手の反応を楽しんでいたが、今はもうそんな幼稚なことはしない。こっそりと、尚且つスマートに手紙を盗み、ひとりの部屋でビールを飲みながら手紙を読む。それが最近の楽しみだ。  村上は思う。この国は無防備が過ぎると。手紙という個人に向けて届けられる秘密の塊のような存在を、レターポストなどという誰でも手を突っ込むことのできる箱に届けるのだから、無防備が過ぎて仕方がない。本来なら宅急便で届けられる荷物のように、家人に直接渡し受け取り印をもらうべき存在だ。それをポイッとポストに入れるだけで、確実に届けたと思っているんだから、この国は終わっている。
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