手紙泥棒

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 その日の夜、村上は上機嫌だった。テーブルの上には缶ビールと一通の手紙。鼻歌まじりに缶ビールを手にし、プシュッとプルタブを引く。途端にもこもこと雲のようにあふれてくる泡をずずっと吸い上げ一口飲むと、村上は缶を一旦テーブルへと戻した。  そしてなんの変哲もない白い封筒をつまみあげる。長方形の形式ばった封筒。かわいらしい模様も、ポップなシールも貼られていない。これはきっと田舎に住む両親からの手紙だろう。今までの経験から、そう決定付ける。  そもそも今の時代、手紙を書く人物は限られてくる。パソコンやスマートフォンに馴染みがなく、手紙を書くのが苦ではない人物とくれば若者ではない。現に村上が手にする手紙の大半は、遠く離れた田舎に住む母親が娘や息子に宛てたものが多く、その内容といえば今度はいつ帰ってくるのかとか、結婚はまだしないのかといったものばかり。  だから、今夜のツマミもきっとその類だろうと、村上は封筒の上部を勢いよくビリッと引き裂いた。この瞬間がまた気持ちいい。読んだあとは捨てるのみ。自分に宛てられた手紙なら、大概の人はカッターやハサミを使い、中の手紙が破れないよう慎重に開封するだろう。場合によってはペーパーナイフを使う人もいるかもしれない。
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