蜃気楼の感触

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三 「対戦は初めてなので緊張してると思いますが、心の乱れは呼吸の乱れを、呼吸の乱れは詠唱の乱れを産み出してしまいます。その緊張感を我が物にして下さい」 「はいっ!」 ねおにゃワールドの対戦は推し活で知ってるけれど、観るのと実際にやるのではやはり圧が違う。みんなこんなプレッシャーの中で対戦していたのか。ちゃんと詠唱出来るかどうか急に不安になって来た。 「ロコ」 黒い長髪に甚平と袴を履いた姿の世忍さんは、息を吐き出すように呪文を詠唱した。どれもパーフェクト表示だ。右手に眼球のついた漆黒の剣を装備して構える。 一直線にこちらに向かって斬りつけてくる、強化タイプの呪文の使い手。一太刀でどれくらいダメージを受けるかわからない。初速はとてつもなく早い。真っ向から攻撃するのは自殺行為。迂闊に手が出せない。まるで武術の達人と対峙したような威圧感だ。 だけど、私も黙ってやられてばかりでは練習にならない。深呼吸して迷いを吸い込むと、不安と一緒に吐き出す。 「ピート、おいで!」 私は白ネコのピートを呼び出した。ちっちゃくて戦える状態かわからないが、これでやっていくしかない。 「ウィン、パズン!」 ピートの召喚を意に介さず、世忍さんは強く踏み込んで漆黒の剣で斬り掛って来た。呪文詠唱はゆっくりでも正確に発音すればエクセレント評価には繋がりそうだけど、それでは判断が遅いということか。相手より早く詠唱し終えなければ、先制攻撃は出来ない。 ここで攻撃させて世忍さんにダメージを与えても私は一刀浴びただけで戦闘不能になってしまう。しかし、迷えば迷うほどなにもできなくなってしまう。ここは一旦防御だ。 「ピート、防御!」 私はピートに防御の指示を出し、世忍さんの斬撃を間一髪で弾かせた。
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