もっと強い力で

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 四六時中くっついていた。  離れるだなんて思いもしなかった。  だって、気がついた時にはそうだったから。  私だけじゃなくって、みんなそうだと思う。  運命だって自分がそうだと思わなければそうと気が付かないものだと思うし、なによりくっついている安心感なんて当たり前すぎて意識したこともなかった。  ある時、ほんの少しの違和感があった。  地に足がついていないような、足の裏がほんの少しだけ浮いてしまったような、言葉に言い表せないような不思議な感覚。 「最近なんかおかしいんだよね」  ファストフード店で友達と話しながら椅子に腰かけて足をプラプラと振ってみる。  友達はカレシの浮気?って笑いながら聞いてきたけど、そういうのじゃないんだな。 「そうじゃなくって。んー、なんって言うのかな?うーん」 「カレシの話じゃないの?」 「うん、普段の話」 「普段?」  何を言ってるんだこいつは?って顔をされたから、慌てて話を明日から公開される映画の話に切りかえた。  友達のお気に入りのアイドルが主演の恋愛映画だ。  私の変な話のことよりも、ずっとずっと話したかった話題を振られた友達は熱に浮かされたように映画の原作を読んでとっても良かったから彼がどうあの役を演じるのか楽しみだって延々と話し続けた。  家に帰ったらリビングでパパがニュースを見てた。  なんか偉そうなオジサン達が記者会見?そんな感じでこっちに向かって熱っぽく話していて、さっきの友達と似てるな、って思った。 「どうかしたの?」  途中からじゃ何をそんなに一生懸命話しているか分からないから聞いてみたけれど、なんとなくテレビをつけっぱなしにしていたパパにはこの人たちが誰なのかすら分からなかった。  買ってきた惣菜を温め直しているママはテレビなんか興味はありません。って顔をして忙しそうにしているから、私は部屋着へ着替えに行く。 『このままでは地球は……』  後ろから切羽詰まった声が聞こえた。  それから一週間くらい経ったかな?  学校の帰りに、校門の前で違和感の正体に気がついた。 「え?」  同じタイミングで近くにいた人がみんな驚いた顔をしてスマートフォンを取り出した。  だって、浮いてるの。 「なにこれ?」  私も急いでニュースを起動させた。 『ブラックホールが急速に拡大。地球の重力が……』  あぁもうっ!  難しくてよくわからない!  そう思った途端にふわりと身体が浮いた。 「うそ!?」  そのまま私達はすーっと空へ吸い上げられていく。  当たり前にくっついていた地面から離れて空へ、宙へ。  地球とくっついていた理由なんかわからないけど、もっと強い引力のある方へ吸い上げられていく。  人も、物も、全部が地球から離れていく。 「なんなの?」  どんどん加速して、意識が遠のく。  最後に見た景色は慣れ親しんでくっついていた青い大地。  そこで私の意識はふっつり途切れた……。 END
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加