奈落への始まり

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奈落への始まり

牧瀬結衣、35歳、30歳で結婚したが、子供は、まだ無い。 子供が、出来ない体ではと、義母に言われ、病院で検査をして貰ったが 結衣にも、夫の春斗にも、異常は見つからなかった。 「じゃ、どうして出来ないのよっ」義母は、そう喚いたが 「仕方が無いよ、こればっかりは、神様からの授かりものなんだから」 春斗は、そう言って母を宥めたが、結衣は、心の中で 「春さん、そっち方面は、淡白だからな~ 月に一度じゃ、子供は出来っこないよ」と、呟いていた。 夫の春斗は、優しくて真面目な人だった。 ちょっと、几帳面すぎる所も有るが、まずまずの夫だと思う。 問題は、義母だった、二人が結婚して、一年が経った頃 義母に癌が見つかり、手術した。 手術後も、治療の為に、入退院を繰り返す事となり それを機に、結衣たちと一緒に住み始めたのだが、凄く扱いにくい。 病気の所為かも知れないが、今、笑っていたと思っていても 直ぐに怒り出す、全くの気分屋だった。 その日も、義母が食べたいと言う菓子を求めて、炎天下 街中の菓子屋を訪ね、やっと手に入れて、帰って来たのに 一口食べて「不味い」と、皿を、結衣の方へ押しやる。 まだ火照った顔で、汗も引いていない結衣は、むっとした。 「直ぐ食べたい、早く!!」と、急かせるから、暑い中 こんなに苦労して、買って来たのに、せめて 「せっかく買ってきてもらって、悪いけど、、」位、言えないのかと思う。 仕事から帰ってきた春斗に、その不満をぶつけると 「母さんは、病気なんだから、少しは優しくして」と、言われる。 「少しどころじゃ無いわっ、これ以上無い位、優しくしてるわよっ」 「そうだったね、ごめん、俺から言っとくよ」そう言っても 春斗が、母に注意する事など無かった。 その母の元へ、春斗の姉二人が、かわるがわるやって来ては 「お昼食べるから、何か取ってよ」と、出前を取らせ 一円も置いて帰るどころか、箪笥の中や、冷蔵庫の中の物を、引っ掻き回して好きな物を、勝手に持って帰る、その帰り際には 「結衣さん、掃除が行き届いてないわよ、病気の母さんが居るんだから もっと、清潔にしてよね」等と、捨て台詞を残して帰る。 「義姉さんが、あちこち引っ掻き回して、散らかすからじゃないっ」 結衣は、心の中でそう叫ぶ。 この事も、何度も春斗に言ったが、少しも改善されなかった。 義母の、入退院の度に、大きな荷物を抱え、付き添う結衣。 こんな時こそ、義姉の力を貸して欲しいのに、そんな時には 全く寄り付かない、二人の儀姉だった。
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