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翌日、グズグズしている春斗を宥めながら、会社に行き、会社の前で
「私、ここで待ってるからね、その退職届を出したら
もう明日から、来なくて良いんだから」頑張ってと言う言葉を
言いそうになって、慌てて飲み込む。
「じゃ、行ってくるよ」のろのろと春斗は、会社の中へ、入って行ったが
暫くすると、小走りで出て来て「退職して良いって」と
緊張の糸が切れたような、ほっとした顔で言った。
「良かったね~じゃ、美味しい物でも食べて、帰ろっか」
「うん」昨日から、何も食べていない春斗だ、何か食べられるかなと
「何を食べる?」と、聞くと「たこ焼き、買って帰って、結衣と食べる」
まるで子供の様な事を言う。
「たこ焼きか~私も、久しぶりだな~じゃ、買いに行こう」
会社が、何で素直に春斗の退職を、許してくれたのかは分からないが
そんな事は、もう、どうでも良かった。
たこ焼きを入れた、小さなポリ袋を持った春斗と、手を繋いで帰る。
手を繋ぐなんて事も、随分やってなかったな~
何しろ、お義母さんの看病で、それどころじゃ無かったけど
少しは、春さんにも、気を付けてやっていれば
こんな事には、ならなかったかも知れない、結衣は、後悔していた。
真面目で、お人好しで、子供みたいな純な心を持った春斗。
そんな春斗が、大好きだったのに、、「春さん、大好き」
結衣はそう言うと、繋いでいる手を、ぶんぶんと大きく振った。
春斗は、ちょっと顔を赤くして「結衣さん、皆が見てるよ」と、小声で言う。
「良いのよ、私達、夫婦だもん」結衣は、更に大きく手を振った。
会社に行かなくなって、少し状態は良くなった様に見えたが
七日七日の法事の度に、義姉達から「鬱ですって~何よそれ」
「それで、会社を辞めたって?これからどうやって暮らすのよ、まったく」
等と、言われる言葉で、落ち込んで元に戻ってしまった。
「お義姉さん、そんな言葉が、この病気には、一番悪いんです」
結衣がそう言っても「貴女は、黙っててっ」「これは、うちの問題なのよっ」
と、取り付く島も無い、法事の度に「長男なのに、情けない」と言われ
堪忍袋の緒が切れた結衣から「いい加減にして下さい、会社を辞めたのは
お医者さんから言われたからです、長男が、何だって言うんですか。
大事なのは、春さんの病気を治す事でしょ」と、怒鳴られ
気色ばんだ義義姉たちは「そんな事を言うなら、もう知らないっ」と
怒って帰り、次の法事からは来なくなった。
その法事も、四十九日が過ぎると、もう、来年の一回忌までは無い。
満中陰志と書かれた熨斗紙を張った品を
親戚や、葬儀に来てくれた人に配り、何とか一区切りついた。
病院にも、ずっと通っていたが、良くなったり悪くなったりの繰り返しで
本当に、先が読めない病気だと思う。
失業保険で、細々と暮らしていたが、それも、いつまでも貰える物では無い。
結衣は、就職活動を始めた。
しかし、世はコロナ過の真っただ中、就職は、難しかった。
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