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結衣は、結婚前迄働いていた、医療事務の仕事を探したが、どこでも
「ナースさんなら、大歓迎なんですけどね~事務は、一杯なんですよ」と
断られてしまう、それでも、めげずに探していたが、とうとう諦めて
他の職種でもと、探す範囲を広げたが、これも、コロナのお陰で
求人どころか、今いる人に、辞めてもらおうと、必死になっていると言う。
倒産する会社も多い、春斗が勤めていた会社も、倒産していた。
だから、すんなり辞められたのかと、今になって納得する。
なりふり構わず、死に物狂いで探し、やっと、見つけたと思っても
運転免許が居る仕事で、免許を持っていない結衣には、どうしようもなかった
かと言って、時間の短いパートや、アルバイトでは、暮らしていけないし
春斗の病院に行く日や、具合が悪くなった時には、休みを取りたいので
どうしても、正社員扱いの仕事が欲しかった。
毎日毎日、足を棒にして、捜し歩いたが、ただ、日にちばかりが過ぎて行く。
ローンが増えた事で、失業保険金も、前倒し的に使ってしまい
最後の頼みの綱だった会社にも、断られた帰り道
追い詰められた結衣は、とうとう深沢義之に電話を掛けた。
「結衣!!どうしたんだね、君から電話だなんて、何か有ったのかい?」
聞きなれた、優しい声に、主人が鬱になって、会社を辞めたので
自分が働こうとしたが、どこにも就職できないのだと、告げた。
「分かった、今、駅の前?じゃ、そこで待ってなさい、直ぐに行くからね」
「はい」結衣は、その言葉で、ほっと安心する気持ちと、この先の事を思って
不安な気持ちとを抱え、じっと待ち続けた。
義之は、タクシーでやって来ると、結衣を、自分の横に乗せ
直ぐに、ハグすると「五年ぶりだね~変わってないけど、少し痩せたね」
と、言った「すみません、お忙しいのに」結衣が、そう言うと
「結衣が困ってるのに、仕事なんか、どうでも良いよ」
しかし、どうでも良い事では無いのは、結衣も、よく知っている。
義之は、多くの会社を持ち、分刻みのスケジュールをこなしている
こうして時間を取ってくれる事が、いかに大変かも、知っていた。
タクシーの中で、もっと詳しい話を聞いた義之は
「それは、大変だったね、それにしても、良く、私を思い出してくれたね」
と、言う「他に、頼る人も居なくて」結衣がそう言うと
「そうか、でも、私が来たからには、何も心配は要らないよ。
全て、私に任せなさい」と、言う「はい」結衣は、小さな声で返事をした。
タクシーは、古い大きな家の、門をくぐり、ガレージに停まった。
タクシーを降りた義之は、運転手に「すぐ戻るから、待っててくれ」と言った
タクシーを降りた結衣は、その時になって、運転手が、病院で会った
早瀬と言う人だと気が付いた、タクシーには「個人」「早瀬タクシー」と言う
文字も有ったので、間違いなかったが、早瀬は、顔を下向けていた。
「ここも、久しぶりだね」義之はそう言って、玄関を開ける。
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