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起
「佐藤先生、2番にフューチャーグローバルマインドさんからお電話です」
「はーい」
取り次いでくれた松本さんに返事をしながら、はて?と私は首を傾げる。
フューチャーグローバルマインド。聞き覚えのない社名だ。
とりいそぎ記憶のページをめくってみても、大なり小なりつきあいのある取引先ではない気がする。
ここはカルチャー教室で、子供向けアートクラスの講師である私にかかってくる電話はほとんどが生徒の保護者からのものだ。教材の仕入れ先とか、連絡をしてくる業者もあるにはあるけれど、こんな風になじみのない会社がいきなり電話してくることはかなり珍しい。
「お電話かわりました。佐藤です」
「お世話になります。フューチャーグローバルマインドのクレバヤシです」
「クレバヤシさん」
名前を反芻してみても記憶にひっかからない。
私は人の名刺を見るのが好きで、もらったものは大概覚えている。職業柄、デザインが気になるのだ。字体や会社のロゴ、どの位置に何が印刷されているか、全体のバランスはどうか、紙の材質、色、形、どの名刺もそれぞれ違っておもしろい。増してやクレバヤシなんて変わった苗字は絶対に覚えている気がする。
「このたびはお忙しいところお時間作っていただきありがとうございます。佐藤様には私どもの提供するサービスについてぜひご案内したく存じまして」
「はあ」
「わたくし、この地域を担当させていただいております。今回のキャンペーンの内容はかなり特別でして、この機会にぜひ佐藤様にも知っていただきたいんですよ」
「はあ」
「ときに佐藤様、最近、体調の方はいかがですか」
「えっ!?」
思わず大きな声を出すと、向かいの席の松本さんが驚いてびくっと顔をあげた。
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