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「そう。しかも即効性がある」
「あるんですかそんな方法が」
「ああ。演技をするんだよ」
「演技?」
「これまでの君は根暗でコツコツやってきたんだったね? なら、その自分を脱ぎ捨てて、理想の自分を演じるんだ」
「できませんよ。役者じゃあるまいし、演技なんて」
付け焼刃の演技なんて誰にでも見破られますよ。圭がそう言うと、隣人は席を離れ、キッチンからひとつの小瓶を持ってきた。
「君の言う通りだ。人間、何かを演じ続けるなんて不可能だ。ところが、その不可能を可能にしてくれるのがこの薬なんだ」
ぽんと手に投げ渡された小瓶には錠剤がたっぷり入っている。中でザラザラと音を立てた。
「この薬を一錠飲めばどんな大根役者でも名優になれる」
「本当ですか? 嘘くさいなあ」
「ウソじゃない。実際、君を止めたときも私は結構冷静だったろ? あれはその薬のおかげなんだ」
訝る圭は小瓶を見る。ラベルを強引に剥がした跡があった。
「ラベルが気になるかい? いまの君の心理状態だと読まないほうがいいと思ってキッチンで剥がしておいた」
どんなことが書いてあったのだろう。圭は気になった。「副作用がある?」
「まあそんなところだ。ひとことで言うと飲みすぎ注意。おや、まだ疑っているね? その気持ちもわかる。ま、騙されたと思って一度その薬を飲んで一役演じてみなさい。一錠でいい。人生変わるから」
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