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ふと携帯を見ると連絡先を交換していた由紀子からメールの着信があった。
〈今夜会えませんか〉
圭に予定はなかった。由紀子と会って問題ない。だが、薬を飲んでいない圭は、素の状態で彼女と会うのが怖かった。圭はこう返信した。
〈ごめんなさい、今日は予定がつきません。次の日曜は如何ですか〉
〈では日曜に。お会いできるのを楽しみにしています〉
連絡がメールでよかったと圭は思う。電話だと素の自分が出てしまうかもしれない。演技するにつれ、だんだん演技していない素の自分をさらけ出すのが怖くなってきた。
薬の瓶を確認する。残りの錠剤の数を数えると、日曜のデートには少し足りないように思われた。薬は圭にとっての生命線、デートには必要不可欠な逸品だ。切らしてしまっては、理想の自分を自信を持って演じられない。それは困る。それに、読まないほうがいいと剥がされたラベルもやはり気になる。圭は思い切って隣人を訪ねることにした。
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