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ふと湧き上がったのは、奇妙な違和感だ。
今まで幾度も触れたことのある主人の小箱だが、書生が知るよりわずかばかり重い気がする。
だが思い違いだと言われれば、或いはそうかも知れない。
腑に落ちないながらも、書生は小箱を手に玄関へと戻った。
奥方から渡された小箱を主の鞄の底に収め、散らかし放題の荷物を丁寧に詰め直す。
手早く荷造りを終えた書生は、応接間へと早足に立ち返った。
そして奥方の待つ卓子の前に立つなり、書生の視野は激しい衝撃にぐらついた。
つい今し方、主の鞄へ戻した筈の小箱が卓子に置かれている。
見た目も大きさも、市松模様の主人の小箱に間違いない。
硬直するばかりの書生に、奥方が雪白色の牡丹を思わせる優美な仕草で椅子を勧める。
求めのままに椅子に腰を落とし、書生はまじまじと奥方を見つめた。
書生の胸中に沸き立つ無数の疑問符を見透かしたのか、奥方が控えめにほほ笑む。
ほんのりと頬を朱に染めた淡い微笑が、書生の芯を昂らす。
卓子の陰で固く拳を握りしめ、平静の仮面を幾重にも顔に張り付けた書生に、奥方が卓子の上をそっと指し示す。
その意図を酌み、書生は主の小箱と瓜二つの箱を手に取った。
滑らかな表面の感触といい、中空に近い軽さといい、こちらの方が書生の記憶に近い。
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