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宇宙人の指
自室に駆け込んで鞄を探る。掴んだものを前に、つい口角が上がった。薄汚れた、腕時計の包みらしき箱を開ける。中には、包帯に覆われた物体があった。
お値段、実に百万円。返品は不可。社会人でも痛い額の“これ”を、大学生の私が入手したのはアルバイト帰りの駅である。SNSを前に苛立ちながら歩いていたら、幸せな顔をした男が近付いてきた。
「お姉さん、今欲しいものは何ですか。何でも手に入るとしたらどうしますか」との問いを携えて。
強烈に漂う胡散臭さに、最初は拒否全開で対応した。しかし、たった数分後には巧妙な話術に聞き入ってしまっていた。決定打は、実演だったが。
男曰く、包帯の中には“宇宙人の指”があるらしい。その指は、欲しいと願えったものを何でも盗んでくれるそうだ。
ただし条件があって、必ず誰かの所有物であること。上限が三つしかないこと。更には一ヶ月との期限まで設けられていた。期限終了日には、男本人が回収に来るらしい。
自らの顔を、鏡に写して再確認する。映っていたのは、試しにと盗んでもらった“学校一の美女が持つ、かわいい顔”だった。万年一人ぼっちの私も、これで人気者になれるだろう。
翌日、学校は大騒ぎだった。ただ、注目を得たのは私ではなく、美女だった方だ。その日、本人はおらず噂だけが登校していた。
どうやら元美女は、事故に遭い、顔面に大怪我を負ったらしい。事情を知る私だけが、真実として確信する。同時に曖昧だった“盗む”の意味をはっきり理解した。
因みに私はと言うと、元からこの顔だったかのように場に馴染んでいた。ただ、いつもの孤独とは違う。恐らく、美人過ぎて近寄りがたかったのだろう。私に吸い付く視線が物語っていた。
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