2人が本棚に入れています
本棚に追加
実に愉快だ。元が良いだけあって、化粧をすると更に映える。カバーではなく、楽しむために化粧をしたのは初めてかもしれない。
つい一時間ほど自撮りを投稿したら、あっという間にフォロワーも増えた。
さて、一つめは何を盗んでもらおう――画面をスクロールしていると、トレンドらしき情報が流れてきた。金持ちとして有名な企業の社長が、大金を寄付したとの内容だった。
善人として扱われる様子に苛立ちが募る。アルバイトへの不服や百万の出費が浮かび、早々ターゲットに認定した。引き出しから箱を取りだし、願う。
「あの社長の金が欲しい」
*
時間と愛だけは金で買えない。そんな名言があったような気もするがそれは嘘だ。
事実、バイトを取り去った私の時間は増えたし、その時間で好きな場所に遊びにも行ける。実際に、今日も高級パフェを食べてきた。
お洒落をして、気の向くままに豪遊。これほど贅沢な生き方はないだろう。
元手は痛かったが、こうも簡単に贅沢が手に入るならプラマイゼロ――どころじゃない。どんどんプラスに傾いていくだろう。良い品を運んでくれた、あの男には礼を言わねばならない。
撮影しておいた写真を投稿する。嘗てはきらびやかに映っていた、他者の投稿が霞んで見えた。
次は何を盗もうか――考えながらスクロールしていると、リンクつきの投稿が目につく。
“リッタの小説読んだ!マジ天才!こんな才能が欲しい(泣)”
瞬間、胸の内に嫉妬が群がった。リッタと言うのは同級生のペンネームで、趣味で小説を書いているような陰気臭い女である。
しかし、とあるサイトの中や同級生には好評らしく、いつも褒め称えられ持ち上げられていた。才能一つない私にとって、リッタは普段から嫉妬の対象だった。
脳内で宇宙人が手招きする。もう少し華やかな才能が欲しかったが、それよりも失った彼女の反応が気になった。ほんの少しだけ迷った末、箱に向かって呟く。
「リッタの小説の才能が欲しい」
最初のコメントを投稿しよう!