590人が本棚に入れています
本棚に追加
兵士らは、私を降ろすとさっさと馬車を動かして来た道を戻っていったのだ。
「……命があっても」
役立たずの召喚魔法以外、何も出来ない女でしかない。
今年で十八になるが、聖女として一生を過ごす覚悟でいたから……あの王太子殿下と、もし添い遂げられたら、と思う以外の望みはなかった。
しかし今は、それも叶わない。
「……これから、どうしようかしら」
自決したことで、来世を約束されるわけではない。
むしろ、自決は最後の最後に使う手段だ。簡単に決めてはいけない。
とりあえず……馬車の揺れで相当疲れたので、適当な木にもたれかかると。
ドサッ。
いきなり、木の上から何かが落ちてきた。
ちょうど、私の膝上に落ちてきたそれに、衝撃などの強い痛みは感じなかったが。
「……精霊?」
銀色と黒が交互に並ぶ模様とふわふわの毛並み。
魔物でも、聖獣でもない……重みを感じないそれは、精霊と言われているものに間違いないだろう。
そっと触ってみると……上質な綿のようで、思わず何度も撫でてしまった!
最初のコメントを投稿しよう!