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砂原に運転してもらい、俺は手神精神病院へとやって来た。彼女を車に残して院内に入る。
受付を済ませると、特に待つこともなく俺の順番が来た。対面した手神先生は、パソコンの画面と俺を何回も交互に見た。
「君……鈴野英輝くん、だよね」
「そうですけど」
すると先生は胸に手を当て「よかった。落ち着いたんだね」と言った。眼鏡の奥の優しそうな瞳が細くなる。
「先週の君は、その……だいぶ憔悴してて、手がつけられなかったから……」
「すみません……ご迷惑をおかけしました」
「いや、いいんだよ」
先生はそう言い、診察なのか俺にいくつかの質問を始めた。俺は内心ドキドキしながら受け答えをする。しかし特に問題はなかったようで、あっという間にそれは終わった。
「大丈夫そうだね。まあ、だからと言って油断せずに。ちゃんと食べて寝ないとやばいから」
医師にしてはフランクな言い方だった。俺は「やばい?」と訊き返す。
「例えば、多重人格になったり、記憶喪失になったり……酷い時には、意識なくして倒れたまま、亡くなることだって……」
とても深刻そうな顔をして先生はしゃべる。そんな彼の様子を見て、俺は少し可笑しく感じた。
「死にませんって。大丈夫ですよ」
そう言って一笑に付した。
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