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・・・
日々は変わらずに流れていく。今日も、爽やかな鳥の囀りが、布団の中の俺の耳に入ってきた。
目が覚めてしまった。本当はダメなんだろう。だけど、欲が出ている。
体を起こしたその時、スマホが鳴った。画面には『砂原さん』と表示されている。
「おはよ、小夜。どした?」
「英輝、今日は暇?」
電話の奥から、小夜の明るい声が聞こえてきた。俺はそっと苦笑いをする。
「……ご存じの通り、家に籠ってるよ」
「じゃあさ、買い物に行かない?」
「買い物?」
「英輝、ずっと外に出てないでしょ。気分転換にどう?」
「えー……もし同僚とかに会ったら気まずいんだよな……。俺、休職してるわけだし」
あと一週間ほどで職務に復帰することになっている。正直、そのときまで外に出たくなかった。同僚と呼ばれる人に会いたくない。
「買い物くらい良いってば。気にするなら遠くに行けばいいし」
小夜は食い下がる。俺は少し考えてから「分かったよ」と言った。
「やった。じゃあ迎えにいくから待ってて! 十時頃でいい?」
「ああ」
電話を切る。あまり積極的な感情は生まれないが、まあ小夜となら楽しいだろうしいいや。
それに、と俺は部屋の掛け時計を見上げる。
そろそろ区切りだ。最後の記念に良いかもしれない、と思った。
・・・
小夜と行った買い物はとても楽しかった。こんな新鮮な気持ちは初めてだった。俺は専ら荷物持ちで小夜の付き添いだったが、きっと何度行っても楽しいと感じるだろう。
小夜といると、ずっとここにいたくなってしまう。
……。
だからこそ、俺は……小夜から離れないといけない。
俺はある場所の電話番号を調べ、スマホに打ち込み、発信ボタンを押した。
「もしもし、手神精神病院ですか?」
休職期間を延ばす必要があるだろう。
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