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「今朝、病院に行ってきた」
数日後、休日の午後。俺がそう言うと、すでに部屋にいた小夜は「……そう」と言い、後ろ向きに座り込んでしまった。窓の外をじっと見ている。鉛雲が、やけに低いところにあった。
……続きを言う勇気が出ない。
無言の時間が流れる。気まずくはない。小夜といるときはいつもそうだ。だから余計に、まだ言わなくても……という甘い考えが俺の脳裏をよぎる。
すると不意に、小夜がスッと息を吸い込んだ。
「……こんな時間がずっと続けばいいのに」
ポツリ、と彼女は言う。雨の降り始めみたいな声だ。しっかりと耳に張り付く。
その言葉を聞いて俺は、頭を殴られたような気分になった。
ずっと、はない。それは、俺が一番よく分かっている。それなのに、この時間が手放せずにいる。
早く言わなければ。俺がずっと小夜に隠していたことを。
「……っ、ごめん、小夜!」
俺は床に手をつき、頭を下げた。手の平から床の冷たさを感じる。唐突な謝罪の言葉に、小夜はきっと驚いているだろう。
「小夜に隠してることがあるんだ。……実は、俺……」
「ねえ」
すると小夜が俺の言葉を切った。彼女の声色は至って普通で、特に驚いた様子でもなかった。思わず顔を上げる。彼女は相変わらず、俺に背を向けていた。
「隠してることって……英輝が、鈴野くんの別人格だってこと?」
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