Grow up

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
歩は自分勝手だ。 「アイス食べたい」 と言うから、アイスを買ってきても 「今は菓子パン気分」 なんて言ったりする。 歩は頑固だ。 「五千円札は紫式部」 と、たとえ間違っていてもそれを認めない。 歩は口が軽い。 「絶対言わないでって言われたんだけど、」 とか平気で話す。 歩は英語が嫌いだ。 「純日本人だから」 というのが口癖だ。 歩は怖がりだ。 「貞子の映画見よ」 なんて見栄を張って結局途中で逃げる。 歩は金遣いが荒い。 「お小遣い使い切った」 と毎月お小遣いデーに言っては、僕に金を求める。 歩は面食いだ。 「美形は世界を救う」 らしい。 歩は寂しがりだ。 「なんで置いてこうとするの?」 と、見送りした後でも追いかけてくる。 歩は気分屋だ。 「将来、アメリカ行くから」 と突然言い出した。 歩は他人本意になった。 「人と楽しく喋っているのが好き」 歩は柔軟になった。 「互いに違うことを受け入れて、新しく気づけると、自分が進化した感じがする」 歩は口が堅くなった。 「秘密を守るのは、周りを大切にすること」 歩は英語が好きになった。 「英語ってたくさんの人と話せる魔法なんだよ」 歩は豪胆になった。 「大丈夫、なんでもやってみるとなんてことないから」 歩は節約上手になった。 「食パンの耳は最高のコスパおやつ」 歩は人と向き合うようになった。 「人間内面が大事」 歩は一人が好きになった。 「自分だけの時間って必要だよね」 歩は、歩は僕の知らない人になった。 理不尽なお願いをされることも、その一癖あった困った性格悩まされることもない。 寂しいと、追いかけてくることもない。 きっと、これから先も 「またね」 と歩が手を振る。初めは大きくだんだん、ゆっくりと。 僕は思わず聞いてしまった。  どうして、なんで歩は僕を置いていこうとするの?  ずっとあのままで楽しかったのに、  なんで、  変わっちゃったの? 歩は僕の目をじっと見つめた。 カラーコンタクトなんか入れちゃって、僕の知らない目だと思った。 「ねえ、私たち20年一緒にいるんだよ? そりゃ、あっという間だったけどさ私ももう大人なの。何回もいってるんだけどさ、いい加減子離れしてよね お父さん」 隣の妻が呆れたように溜め息をついた。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!