失ったもの

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失ったもの

頭脳を失う…?!そのことについて詳しく話を聞くと、いろいろなことがわかってきた。この小説の国に居続けると、アリスは元の世界に戻れなくなってしまうそうだ。それは、時が進むにつれて色々な物が白の女王の手によって奪われてしまうからだ。まずは味覚が無くなり、次に視覚。次に聴覚が無くなり、次に嗅覚。最後には触覚を取られて、この国から出ることが不可能になってしまうというのだ。 第1のアリス「あなたも、出られなくなってしまう前に出た方がいいですよ。ある日突然全てが無くなる、ということもあるそうですから。」 アロリス「はい。私、ここから出る方法を探します。色々教えてくれてありがとうございました。」 あの世界には退屈していたけれど、あの世界だから出来ることがあるし、あの世界だから会える人達がいる、と言うことを再認識した私はここから脱出することを試みることにした。図書館を出て私は白の女王に会ってみようと思い、街の中央にそびえ立つ大きな城に向かって歩き出した。図書館から少し歩いていると、商店街のような場所に来た。そこには若い人達も結構いて、明るい商店街だった。でも、30代くらいの人達からの視線が冷たかった。どうしてだろう、と考えながら歩いていると、1人の男の人が前から歩いてきて私の姿を見るなり腕を掴んで、私は路地に連れていかれた。 アロリス「ちょっと?!」 ???「お静かに。どうしてあんなところ歩いているんですか。あんなに堂々と……。」 アロリス「……どういうことですか?」 男の人(といっても私と同い年位の人))は少し呆れた顔で私にあの商店街のことを説明してくれた。あの商店街は朝と昼は普通の商店街だが、夜になるとアリスを売り捌く『闇市』として利用されているようだ。そして、今日はもう日が落ち始めている。そのことを知らずにあのまま歩いていたら、と考えるとゾッとした。元の世界に帰る、どころの話では無くなるじゃないか。 アロリス「…教えてくれてありがとう。あなた、ここについて詳しいのね。名前を聞いても良いかしら?」 アンベルト「お礼だなんて言わなくても結構ですよ。僕は『第4のアリス』、アンベルト・リズフュート・スタフィングです。」 アロリス「男の人もアリスとして選ばれるのですか?本当に、不思議な所ですね。」 そう言うと、第4のアリスは私を自分の家まで連れていってくれた。第4のアリスにこれから何をするのかと聞かれたから、白の女王に会いに行く、と伝えると第4のアリスもついてきてくれることになった。出発は明日の朝ということになって、私は空き部屋を使わせてもらうことにした。 その部屋は空き部屋だとは思えないほど片付けられていて、扉を開けた瞬間少し驚いてしまった。もっと物置のような感じになっていて、不便そうなイメージがあったからだ。普段、自分の家の部屋がとても広かったからそれよりも狭いとなると過ごしにくいだろうなと思っていたが、これくらいなら全然平気だ。 アロリス「こんなに親切にしてくれてありがとうございます。」 アンベルト「いえ、とんでもないです。僕は、これぐらいしか出来なくて。あ、でも、敬語を使うのを辞めていただけると嬉しいのですが…。」 アロリス「どうしてですか?」 アンベルト「僕は、そんなに身分が上の方ではありませんので。かしこまられるのが得意ではなくて。第6のアリスさんは、確か御貴族様でしたよね。」 身分なんて気にしなくてもいいのに、と思ったが、第4のアリスに気を遣わせない為にも、敬語で話し掛けるのは辞めることにした。そう伝えると第4のアリスは嬉しそうに笑った。その笑った顔が少し御父様に似ている、と思ってしまった。 アロリス「じゃあ、『第4のアリス』じゃない呼び方でもいい?」 アンベルト「もちろんです。ここにいるみんな『アリス』なんですから。第4のアリスって微妙に長い気がします。かといって、アンベルトでも長いですよね。」 アロリス「じゃあ…アベル。私、アベルって呼びたいな。」 アベル「…良い名前だ。これからよろしくお願いします、第6のアリスさん。」 アロリス「じゃあ私のことも、アロリスって呼んでくれたら嬉しいな。」 アベル「分かりました。よろしくお願いします、アロリスさん。」 それから私はその空き部屋で一夜を明かし、白の女王の城を目指して歩き始めた。途中で図書館によって行くと、第1のアリスが椅子に座ってお茶を飲んでいた。 第1のアリス「あら、第6のアリスじゃない。第4のアリスも一緒なの。」 アロリス「あの、第1のアリス。もし、よかったら…私達についてきてくれませんか?」 第1のアリス「……言ったでしょう?私は『頭脳』を奪われて、考えられないって。役に立てません。」 アロリス「その奪われたものを、諦めるんですか?女王に会えば、この世界から出られるかもしれないのに、その希望をあなたは捨てるのですか?」 第1のアリスは固まってしまった。驚いた顔をして、口をポカンと開けて私達の方を見ていた。そして目を背けながら準備をしてきます、と言ってティーカップを片付け始めた。
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