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「はぁっ、はぁっ」事件発生!只今緊急捜索中…
強烈に血が騒いでぎゅっと拳に力を込めては、溜めに溜めて全力で廊下をかける。
目的地の美術室は入口が案の定開いていて、ゴールのソファまで駆け抜けた。
予感。絶対……ほら、いた!!
「葵くんっ、どうゆう… わっ」
足元に置かれたリュックに勢いよく躓いて足がもつれる。よろけた体はソファに手をついてブレーキをかけた。踏ん張ってる腕がじんじんする。
「ホント俺……何回襲われんの?」
「違っ…コレ!どうゆうこと!?」
私は手にしていた紙っぺらを彼の目の前に突き出した。危うく寝込みに抱き着く寸前だったが、半分馬乗りのこの状態もそっちのけになる程の大事件。
必死な私とは打って変わって、けろっと白状する重要参考人。
「あぁ。俺、美術部入ったよ」
「何で!?」
「御礼?真白をサポートする応援部員?」
「…っ」
葵くんは寝そべっていた体を起こして「バイトまで寝ようと思ったのに」とボヤきながら欠伸をひとつ。
私は力が抜けて長い溜息と共に座り込んだ。
このソファで堂々と寝たいが為だけに入部したのではないか、と落胆していると葵くんはそっと私の左手を取って自分の顔に近づけた。
ナニ!?
「だから大丈夫かって聞いたのに。やっぱり爪黒くなっちゃったじゃん」
容易く……触れないで欲しい。
ドキドキも、ピリピリもしちゃうから……
「…そのうち、オチルノデ」
「そぉ?良かった。髪はシャンプーで落ちたよ。カラーも目立たなくなったっしょ?」
手がくすぐったくてコクンとだけ頷く。
「こんなちっさい手でよく繊細な絵描けんなぁ」
まじまじと私の手を崇めるかのように触り自分の手を重ねて大きさを比べている。
「…っ!あ、葵くんの手の方が2.5センチ大きいのでっ便利だと…思いマス」
「え…?」
不思議そうに私をじっと見て、葵くんはいつもの蒼白気味の顔で笑った。
少しひんやりしていた大きな手から、ようやく左手が逃れると火がついたように熱くなる。気付けば右手にあった入部届は皺苦茶だった。
今日もまた私は翻弄されている。
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