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3.しろのクオリア
「神崎って、1年の3学期に転校してきた人でしょ?」
「あー。そーいえばそんなヤツいたね。
スッゴい頭良いんだっけ?」
「えっ?2年のとき留年ギリギリって聞いたけど?」
若菜と柚子は噛み合わない会話をしていた。
窓際の柚子の席にたむろって、私と若菜は開けた窓の枠に腰掛け昼休みの談笑中。
小中高とずっと同じクラスできた気心知れた親友だ。私が葵くんのことを黙っていたので、掻い摘んで伝えるとちぐはぐな情報のやり取りになった。
噂をすれば…「おーい」とベランダから聞き慣れた声がする。横の若菜は声を耳にした途端、桜色の視線を飛ばし始めた。
隣のクラスのベランダを伝って向かってくるのは、純平と葵くんだ。
「真白、こいつ美術部入ったってホント?」と純平が聞くので私はコクンとした。
「だからマジだって」
「いやいや、何で?」
「真白ぼっちじゃ可哀想じゃん」
「真白はずっと中学から孤高の画伯よ?邪魔しないで」
純平の言う通りと私は頷くが、葵くんの楽しそうな笑い声が背から届く。
私も邪魔はしたくないのだけれど… 若菜と純平の。本当にいい加減、告白しあったらいいと思う。近くに居るだけで桃色の空気が漂って、こっちが火照りそうになっていると、葵くんが私の肩をちょんちょんと突いて後ろから話しかける。
「真白、ちょっとウチのクラス遊びに来て」
「…お断りします」
「そ~言わずに、ちょっと観察してもらうだけ」
ぶんぶん首を横に振った。葵くんに着いていくのは嫌な予感しかしない。
「…ひゃっ!?」
急に浮き上がる私の体。背後から私のウエストに葵くんの両腕が絡まると抱え上げて……
「よっ…と。真白お借りしまーす♪」
と言いながら窓枠に座っていた私を引っこ抜いて教室からさらったのだ。
私が抱っこされて宙を浮いている間に「ちょっと!」柚子の怒号が飛び、すかさず「大丈夫」と純平が鎮火する光景をぽかんと見ていた。
葵くんはストンと私をベランダに下ろすと、両肩を掴み電車ごっこで1組まで運ばれる。
いったい、何がどうなってるの!?
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