1.始まりは夢色

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真白(ましろ)(そら)!行くぞー」 「はーい」 「ちょっと待ってぇ」  父の声で朝が忙しくなる。見送る母は介護士で今日は夜勤だから弟にあれこれ小言が多い。  毎朝父が通勤がてら車で私達を送ってくれる。隣町の田原小中学校に到着すると、助手席の空が「行ってきまぁす!」と元気に飛び出して行った。小学5年生になった弟は身長154cm、ついに追い付かれてしまった。   父の運転は更に15分かけて田原駅へ。  私達が暮らすのは大原山の麓にある大井町。自然が豊かで長閑な田舎。バス停も駅も遠いしお洒落な店もないけれど、ずっとここで17年育った……私はとても気に入っている。  車窓から入る風がいたずらに髪で遊ぶ。鬱陶しくなった前髪を横に流して、鎖骨辺りまで伸びた毛先を押さえる。今度母に頼んで美容室に連れて行って貰わなくては。  「行ってきます」駅前に車が着くと私はすぐ降車して、仕事先へ出発した父を見送る。  車のバックライトの横には青色のステッカー。白の四葉マークが描かれた身体障害者の標識だ。  父は左足が麻痺して動かない。私が小学生になってすぐ、仕事中機械に足を挟まれ大怪我を負った。長期入院の後に障害者雇用で今の仕事に就いたのだ。  父はその足を見せようとはしない。私の記憶にある父の足はとても痛々しく肌の色を失っている。忘れられない悲しい色が足に刻印されているんだ。   今日も無事に会社に着きますように……    父の車が遠くなって見えなくなるまで祈る。それからいつも駅の階段を上がり電車に乗るのだけれど、今日は珍しくキャリーを抱えたお姉さん達とすれ違う。 「うわっ、超ど田舎!」 「ええ〜!?コンビニないよ!?」  そうなんです。  初めて訪れる人は皆ビックリしてます。  何度目かと笑いを堪えながら上りホームに向かった。3両編成の大原鉄道で私は東川高校へ通学している。  同級生10人のうち半分は地元を離れた。寮のある高校や兄姉親戚を頼っての進学。居残り組は揃って東川高校に入学した。  電車は原川、東川、を経て高校駅まで揺られること20分。カタンカタンと自然の中に消えてゆく電車の音色も、川が爽々と流れる風景も、何処までも続く緑の景色も、私は大好きなのだけれど。  今年は3年生。受験もあって別れの時がやがて待っていると思うと……寂しさもあって最近は一層大切な光景に思える。
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