1.始まりは夢色

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 東川高校駅前にはコンビニと小さな定食屋さん。あと3駅進むと終点のJR駅なので、鉄道は上るにつれ町が栄えていると聞く。  徒歩15分で校門をくぐると花壇を見渡し観賞してから3年2組の教室へ。小中から仲良しの若菜(わかな)柚子(ゆず)を待つ。  平凡で平穏な高校生活だと思う。授業が楽しい訳でもなく親友といる時間が大事。  主な学校での目的は部活動。放課後、別校舎の作業棟へ。築50年以上の総檜造りで、中の美術室は私のもう一つの大切なもの。  残念ながら一人の部活動で美術の専任もいない。でも趣のある教室も画材も独占出来て、絵の為に学校に行くのを楽しみにしているような……不順な生徒だ、私は。  美術室の入口まで来ると足が急停止。扉が開けっ放しになっている。昨日退室する時にはきちんと閉めたはずなのに。不思議に思いながらゆっくり足を教室に踏み入れて、探り探り……突然視界に動くものが飛び込んでくる。 「ひっ!?……あぁ」  モンシロチョウ。ひらひらと開いた窓から迷い込んできた。今日は4月の終わりにしては特別暑いから、強い陽射しから逃げてきたんだろう。蝶はアップダウンを繰り返しふらふらしているようにも思える。  窓枠の中は日光がいっぱいだけれど教室の窓際は日陰でコントラストが強く、白い羽ばたきは青くも見えてなんとも……儚げな美しさを感じてうっとりと見惚れ――――!?  何か、ある。  テーブルが3列ずつ9台とそれぞれに椅子が4脚。作業台が美術室に並んでいるのだが、、、2列目の窓際の席。私がいつも絵を描く場所に、見覚えのない茶色の長ソファが置いてある。  モンシロチョウはそのソファの上を暫く舞って窓から出ていった。  ……予感。いる、そこに感じる。
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