1.始まりは夢色

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 私は背負ったリュックの肩掛けを両手で握り締め、恐る恐る足音を立てないように近づく。ソファの背もたれでその奥が見えない。近寄る程に高鳴る胸の音は、そこに横たわった人影を見つけて全身を震え上がらせた。 「わっ!?」  咄嗟に口を両手で塞いだけれど驚いた声と心音は元に戻らない。同時に見開いた両目は、その人物像の青色に一瞬で釘付けになった。  綺麗な髪色… 青い髪なんて初めて見る…  ソファに仰向けで寝ている男子。その人の頭が私側に向いていたので青髪がすぐ目についた。髪を部分的に青色のメッシュにしている。  青… 紺… 違う。…紫っぽい濃い青色。  そう、瑠璃(るり)… 例えるなら瑠璃色。  静かで落ち着いた感じ、それでいて煌びやかな発色で艶もある。  息を潜めてそおっと近付いて見る。  つい物珍しくその美しい青色に魅入ってしまう。塞いだ両手から感嘆の声がもれそう。  ちょっと惹き込まれすぎた、かもしれない。  その知らない男子の頭に覆い被さるように眺めていたら、瞼にかかっていた長めの瑠璃髪の間から突然白眼がパッと開く。 「きゃっ!?」「なっ!?」  瞳も青っ…――――!!!  次の瞬間には鈍い音がして頭に響き渡った。  覗き込んでいた私のおでこと咄嗟に起き上がった男子のおでこがぶつかったのだ。  「ったぁーっ」男子のうめき声を耳にした時、ぎゅっとした目の奥では火花が散っていた。急いでおでこを擦って痛みを逃す。 「い"て〜。誰?あぁ、美術部…」  私がチカチカした目で男子を見ると、同じようにおでこを擦ってソファに大股開きで座りしかめっ面で見られていた。 「びっくりしたぁ。襲われるのかと思った」 「ち、違っ!か、髪の色が綺麗だなって…」  男子の仰天発言にこっちがびっくりして目が飛び出るかと思った。 「あ、これ?カラーモデルってやつ。  いつも世話になってる美容師がやってくれたの。ブルーのカラコンも入れてカッコつけて写真撮ってもらった。今、青いのが流行ってるんだって」 「へぇ…」  瑠璃色の髪にブルーの瞳、顔面蒼白気味。白のYシャツの下にはインディコブルーのTシャツが見え、うちの制服紺青色のズボン。    彼の纏う青色が全て調和している……まるで夏の真っ青な空のような感じ。 「でも、青色ってすぐとれちゃうらしい。  日本人の髪質だと染まり難いんだって。  今日シャンプーしたら色落ちするから、綺麗な青も今だけ」  私は彼の青色の解説に何度も頷いて納得していた。『一瞬の輝き』『儚い美しさ』だからこそ『綺麗』と感動するし強く惹かれるものだ。それは滅多にない奇跡かもしれないから。その瞬間を目に焼き付け、描いて残したいと思うしそうしてきた。  今だけと言う彼の瑠璃色をまた私は目を凝らして見つめてしまっていた。
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