1.始まりは夢色

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「大井田原ってタハラじゃなくてタワラだってね。大井(おおい)田原(たわら)も別に地名あるってめちゃややこしいな。…で下の名前なんだっけ?」 「…真白(ましろ)」 「大井田原、な。覚えたっ」  彼は満足気に頬を上げた。  しっかり目を見て話をする人。私をその青髪の奥から直視で捕まえている。浴びる視線がくすぐったいけれど……負けじと私も観察して彼を脳裏にスケッチしてみる。  二重で睫毛は長く涙袋に薄っすらクマ。鼻筋は通っていて顎のラインは角々しくなくて滑らか。首は細めで華奢だけれど、喉元に鎖骨そして大きな手は骨張って男子らしく……髪もキメているから非常に整ったモデル像だ。 「じゃあ俺行くわ。一応登校したから出席交渉すっかな」  目先の美術モデルは床に置いてあったリュックを掴むとスタスタ去ろうとする。 「え?ちょ、このソファは!?」 「置いといて。いつも応接室で寝てたんだけど校長にバレちゃって。また寝に来るから」  いろいろ問題点が気になるけど、肝心な回答をまだ得ていない。 「あの、名前!」 「……3年1組、神崎(かんざき) (あおい)」 「あおい!?」  最後に見せた振り向きざまの不敵な笑みは、ちょっぴり眩しくて私は何度も目をパチパチさせる。静かになった美術室に私の心臓の音だけが響いて、弾んだ振動がなかなか静まらない。  いつもと違う、新しい感覚が駆け巡って……ムズムズする手はその日絵を描くことができなかった。
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