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「真白?」
「お父さん… あ、うっ…」
「話は聞いているよ。迷っているのかい?」
「…ひとりで決めていいのか、迷ってる」
「もし、その原因が父さんなら…謝っておかないとなぁ」
「っ、何で!?」
「父さんが入院した時、まだ真白は小さかったのに…
怪我と向き合うのに精一杯で、真白に随分と怖い思いをさせてしまったよ。
じいっと探るように人を見るようになって、自分の気持ちを後回しさせていたんだな」
「それはっ、お父さんのせいじゃな…」
「真白にたくさん花の絵を貰って、力も元気もくれたのに…足を元に戻せなくて、ずっと不安にさせてしまっているだろう?」
「ち、がっ…」
――――違う、と言い切れない。
――――もう、嘘は… つけない。
「父さんの片足は無惨かもしれないが、知らなかったか?
父さんは幸せなんだ、家族が笑顔でいてくれて。真白が笑えば、花の絵をくれた時と同じで元気を貰えるんだよ。
彼がいるおかげで、真白はよく笑うようになっただろう?」
「…本当に?」
「あぁ。だから真白が幸せなら、父さんも幸せだ。
自分の選んだ道を、大切な相手と一緒に進めばいい。そうやって、父さんには母さんがいるじゃないか。
母さんとは一心同体だから、何も心配することはないぞ。イテッ」
バチンと音がした後に、鼻をすすりながら照れ笑いする母の声が聞こえた。
一心… 心をひとつに。
いつも二人が同色のオーラを出していたのは、心と心が繋がっていたからなんだね。
家族を思い浮かべていた私の視界に、ようやく葵くんを映し安堵の笑みを送ると…
これもお見通しだったのか、葵くんはふっと笑う。
「それにしても…」
「うん?」
「彼の熱心さには参るよ。
アメリカの先進医療がどうだとか、イギリスの再生医療があーだのこーだの。
さっぱりわからん長いメールを送ってきて」
「え?」
「足の事はとっくに諦めてたが、医学の進歩に…未来へ希望や夢を見れるようになったよ。まったく面白い奴だ」
「え??」
「彼はそこにいるのかい?代わってくれないか?」
「う、うん。……、お父さんが代わってって
?」
私は葵くんにスマホを差し出すと、コホンッと咳払いをして受け取った。
「はい、神崎です。ご無沙汰しています」
なぜか私が緊張してしまって、胸で祈るように左手が右手を包んでいた。
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