1.始まりは夢色

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1.始まりは夢色

 新緑の暦月へと移りゆく頃。朝の陽射しは増々強くなって、若葉が元気に大きく育つことだろう。部屋の窓から射し込む朝光が、まだ夢の中にいる私の瞼の裏をすうっと照らす。  青、黄色。緑に橙橙と桜色。そして、白。  まるで雲のように、時に煙みたいに。絡み合ったり弾き合ったり。  私は夢で……いろいろな色、をいつも見ている。  夢色は朝を感じると何処か遠くの方へ流れていってしまう。それが目覚めの合図。ゆっくり目を開けて瞬きをすれば、ベットの真上の白い天井が映る。  一日の始まりにするのは……  天井を白いキャンバスに見立てて絵を描く想像をすること。漢字の練習する空書きの真似をして私があみ出した天描き。  今日は何を描こう?  覚醒した私の脳はもう早く絵を想像したくて仕方がない。青線でサッササッと直線と曲線と幾つも繋ぎ合わせれば、白い平面に浮き上がってきて徐々に立体へと形作る。  現れたのは、「モンシロチョウ」  ――――― ゆらり、ふわり。  可憐でいて力強いその羽ばたき。青白く美しい飛跡に魅せられ何か……予感がした。心が弾かれて縺れ絡んだ「しろとあおのクオリア」。  温かくて切くて… (てのひら)で溶けて消える…  真っ白な雪のような感覚を、このときまだ私は知らない―――――。  
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