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目覚め
「夢か。」
目を覚ましたのは、自分のベッドだった。朝日がカーテン越しに部屋の中に差し込んでいる。この家を買うときに決め手になった、小鳥たちの賑やかな囀りが裏の林から聞こえていた。
世界は、はっきりと平和だった。
「今日はボナーヴ賞の授賞式だったな」
ベッドの上で上半身を起こし、小型携帯情報端末を手に取って今日のスケジュールを確認する。それは三十七年の学者生活で身に染み付いたルーティンでしかなかった。だが、それも今は昔。ほぼ空白のスケジュールアプリを閉じるとベッドから出て、鏡の前に立った。
高齢者の入り口に差し掛かりつつある男が、鏡の中から私を見返してきている。
私がシワの増えた顔を触ると、その男も顔を触る。
それで、今が現実だと確認した。これがあの荒れた戦場で見ている逃避のための夢ではないと。
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