目覚め

1/1
前へ
/14ページ
次へ

目覚め

「夢か。」  目を覚ましたのは、自分のベッドだった。朝日がカーテン越しに部屋の中に差し込んでいる。この家を買うときに決め手になった、小鳥たちの賑やかな囀りが裏の林から聞こえていた。  世界は、はっきりと平和だった。 「今日はボナーヴ賞の授賞式だったな」  ベッドの上で上半身を起こし、小型携帯情報端末を手に取って今日のスケジュールを確認する。それは三十七年の学者生活で身に染み付いたルーティンでしかなかった。だが、それも今は昔。ほぼ空白のスケジュールアプリを閉じるとベッドから出て、鏡の前に立った。  高齢者の入り口に差し掛かりつつある男が、鏡の中から私を見返してきている。  私がシワの増えた顔を触ると、その男も顔を触る。  それで、今が現実だと確認した。これがあの荒れた戦場で見ている逃避のための夢ではないと。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加