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カップとタペストリー
男の話に混じりたくなかったらしい、Ms.ウィンジーは私にお茶を出した後は、どこかに引っ込んでいて、私たちはリビングに二人きりだった。
孫自慢話に疲れたゲーグがお茶を勧めてくる。そのカップを手に取って、私は一瞬戸惑った。
その、カップは昔兵士として派遣されたあの国の、特徴あるデザインだったから。
なぜ、こんなものを? ゲーグはあの戦場を……覚えておきたいと思っているのだろうか? だから、こんなデザインのカップを身近に置いている?
そういえば、数回訪問したゲーグの家で、お茶が出されるのは初めてだった。ゲーグはいつも客にはこのカップを出すのだろうか?
疑問に思って、お茶に口をつけるのに戸惑って、私はリビングの中を見渡した。
夫婦・子供の写真、孫のもある。そして、スポーツ関係の賞状や、年季の入った置き物……!?
「ゲーグ、あれはなんだ?」
それまで、一度として気付かなかったものが目に止まった。
それは、このカップと同じ、あの国のリビングルームによく飾ってあったタペストリーだった。
「あれ? どれだ?」
「暖炉の上にある、敷物」
「あれか? ほら、俺たちが派遣されてた国の……土産だ」
「このカップも土産物か?」
ゲーグは頷いたが、その顔はどこか気まずそうだった。
「どこで買ったんだ?」
いつの間にか問い詰めるような口調になっていた。あの国には土産物屋などほとんどなくて。
「どこで買ったんだ? ゲーグ?」
「いいじゃないか、イル。みんなやってたことだ。廃墟から品物を救い出しただけだ」
「略奪してきたと、認めるのか?」
「もう前の持ち主もいない物だろうし、そう怒るなよ」
宥めるような手つきを見せるゲーグ。彼に、はっきりと怒りを感じた。
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