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戦地の母
「兵隊さん。お茶でもどうですか?」
そう言って勧められたカップには、いい匂いのするお茶が入っていた。
「毒は入っていませんよ。ほら」
戸惑った表情を浮かべる俺たち兵士に苦笑して、その女性は自分で一杯飲んでみせた。
あの国の荒地、小さなオアシスに肩を寄せるようにしてその村はあった。そこの防衛が俺たちの最後の任務で。村人と交流もしておけと命令があったのは事実だが。
「いただくよ」
その女性の持ってきたカップが素朴ながらいいデザインで、俺はそれに興味を惹かれた。だが、茶を飲んだのは俺だけで、他のメンバーは愛想笑いを浮かべて断った。
「兵隊さんたちは遠くから来られたのでしょう? 親御さんは心配されていないんですか?」
お茶を飲み干し、カップを手の中で回しながら鑑賞していると、女性が俺に尋ねてきた。彼女は俺の母と同じぐらいの年齢だった。
「時間があると連絡しています。村の皆さんには歓迎を受けているから大丈夫だって」
「でも、遠くでしかも兵隊さんなんて……きっとお母様はどれほど。私にもあなたと同じぐらいの歳の息子がいて……首都に出稼ぎに行ってるだけでも、心配なのに」
「この村の……いやこの国かな? 平和を保つためです。母も父も、俺のこと誇りに思うと」
「ありがたいことですよ。あなた方がいてくださって」
「そう言ってもらえる事が、一番です」
それから、彼女は時々私たちの部隊に差し入れをしてくれるようになった。最初は愛想笑いだけだった他の奴らも、彼女には心を許していった。
確かに、俺たちは彼女に自分の母親を重ねていたのだ。でも……。
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