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戦地の母とその息子
「敵対集団の撤退を確認。掃討作戦に移る」
「ラジャー」
十何度目かの襲撃の後、俺たちは敵対者の残存がいないかと村の周囲を巡回していた。ほっとしたことに、生きてる奴はおらず見つけたのは死体だけ。
敵の死体も回収することになっていた。村の住人にとってはその死体も同胞だ。あまり酷い扱いはできなかった。
村の広場には人が集まっていた。知り合いの遺体がないか確認するためだ。
トラックから、死体袋を下ろし、顔が見えるように少し口を開ける。村人が彼らの顔を確認して、あちこちから泣き声が上がる。身内がいたのだろう。
何度見ても、慣れない光景だった。そして……。
俺は、慟哭する女たちの中に見知った女性の姿を見つけた。いつも差し入れを持ってきてくれる彼女だ。思わず、そのそばに近寄った。
彼女は、袋の口から出ている青年の顔を撫でていた。
「息子さんは、出稼ぎに……」
「武装組織に入ったって連絡があったんです。あなたたちには言えなかった」
俺は、彼女にどんな言葉をかけていいかわからなかった。すると、彼女が息子の顔から視線をあげ俺を見る。彼女は泣いてはいなかった。むしろ、俺より冷静だったかも知れない。
「村を守ってくれてありがとう。……本当に」
でもその遺体は、あなたの息子なのだろう?
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