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プロローグ
はっ! はっ! はっ!
自分の呼吸音がやけにはっきり聞こえる。
「セシル中隊! 回収地点まで残り五百メートル!!」
「気をつけろ! あと三十分で回収部隊が撤退する!」
間に合え! 間に合え! 間に合え!! くそがっ!
キュルルルル! ドーンっ!!
俺の近くに砲弾が着弾して、荒地の砂と音と衝撃が襲いかかってきた。たった五百メートル。その距離が果てしなく遠い。
間断なくマシンガンの音が響き、必死で走る俺たちをただの肉塊へと変えようとする。
クソッタれ! 撤退戦の殿なんて死に役じゃないか!
だが、あと百メートルで味方の陣だ! あそこまで辿り着ければ! と、思った瞬間だった。
「ぐっ!」
隣を走っていた相棒が、乾いた地面に勢いよく倒れ込んだ。
危ないなんて思いもしなかった。無意識に立ち止まり、振り返る。
「ゲーグ! どうした!」
どうした? その言葉は自分で言っていても、馬鹿らしかった。その時、もうすでにゲーグの右足は跡形もなく吹っ飛ばされていたからだ。
「先に行け、イル! 俺のことはいい!」
「そんなことできるか!」
俺は、ゲーグのそばに駆け戻ると、相棒を担ぎ上げた。あと百メートルなんてなんだ! 俺たちは一緒に帰る!
走り出すが、銃弾の雨の中、重武装の兵士一人を抱えて走るのははっきりと無謀だった。
でも、走るしかない!
はっ! はっ! はっ!
自分の呼吸音だけが耳につく。目が霞んで、今にも飛び立とうとしている輸送機が視界から消えそうだ。ダメなのか? 俺はこんな異国の荒地のど真ん中で、見捨てられて……死!?
「急げ!」
「回収に来たっ」
「援護ー!!」
と、ふっと身が軽くなった。味方が来たんだと気付く余裕もなく俺は走り続けて……。
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