竜の卵とたくさんの泥棒

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   * * *  カラス達は日が昇ってすっかり明るくなった頃に「キンピカ」の回収をする予定でした。  しかし、まだ薄暗さの漂う早朝に。 「おやおや、私のかわいい相棒よ、何を見つけたんだい?」  早朝から狩りに出ていた金持ち。その相棒である犬が、奇妙な匂いに気付いて樹の下を掘りはじめました。  出てきたのは、生まれたての朝日に照らされきらりと輝く金色でした。竜の卵が見つかってしまったのです。  犬は自慢げにワンと吠え、金持ちは驚きに目を見開きました。 「一体何だこれは? そういえば、昔この辺りには遺跡があって、いまでもたまにそういったものや骨董品が出ると聞いたぞ」  犬に手伝ってもらい、金持ちは竜の卵を掘り出しました。土や葉で少し汚れていましたが、手で拭えば、その輝きは金塊よりも美しく眩しいものでした。 「これはきっと、とてもいいものに違いない! といっても、売るべきではないだろうな。これは我が家の家宝にしよう、こんなにも輝いているのだ、家に置いておけば、きっと幸運がやって来るに違いない!」  金持ちはその後、狩りをいくらか楽しみました。金持ちの狩りの腕は確かで、狙った獲物を逃がすことはありません。犬の技術も高く、獲物をしとめるためには、自分はどうしたらいいのか、素早く判断して主を手伝います。  やがて狩りを終えて、金持ちは竜の卵を持って屋敷に戻りました。使用人達もその輝きを見るや否や、感嘆の声を漏らします。 「なんて美しいのだろう! こんなものが出てくるなんて!」 「いつか話に聞いた竜の卵に似てるが、それを模して、過去の人々が作り上げたのだろうか?」 「それにしても……こんなにも綺麗なもの、もしかすると、誰かのものだったのではないですか?」  その使用人の言葉に、金持ちははっとします。そう言えばこの黄金の球体は、葉や枝に隠されるようにしてあったではありませんか。まるで誰かがわざとそうしたように……。  まさか自分は悪いことを? 受け入れがたく、金持ちは頭を横に振りました。 「この美しい黄金は、ここに飾っておこう」  竜の卵は、屋敷のホール、その奥に飾られました。それから、埃を被らないように、毎日使用人達が手入れを行いました。 「あの黄金、たまに動いている気がするんですよね。ほら、昨日と比べて、少しずれていませんか?」  そんなことを言う使用人もいましたが、誰も気に留めませんでした。  * * *  黄金の正体を見破ったのは、屋敷に住みつく猫でした。 「愚かな人間どもめ! あれがただの黄金だと思ったのか? 金にせず飾るのは、欲丸出しでないから少しほめてやってもいいが……あれはどう見ても、竜の卵じゃないか!」  猫は考えました。もしあの竜の卵を盗み出して、自分が孵化させることができたのなら、と。  竜とは強い生き物です。火を吹き、その爪、その牙も非常に鋭い、敵に回せば恐ろしい生き物です。  でも、味方にできたのなら? 「よし、最強の下僕にしようじゃないか。全てが私の前にひれ伏すのだ」  猫はいとも簡単に竜の卵を盗み出しました。飾られている台座から落とし、転がし、屋敷の外へ。猫は知っていました。竜の卵は非常に丈夫だと。だから落としたり、転がしたりしても問題はないのです。 「おや? お前はもしかして、もうすぐ孵化するのか?」  道中、猫は竜の卵が時折動くことに気付きました。 「安心しなさい。私がお前の母だ。いまから安全な場所に移動するからな」  猫が卵を転がしながら向かったのは、街のはずれにある廃屋でした。ここで竜の子育てをしようと考えたのです。人の気配もない場所です。  ですが今日は妙でした。 「うむ、誰かいるようだ……稀に出来損ないの料理人がめそめそ泣きに来るが、彼かな?」  猫は慎重に、足音を立てないようにして廃屋の中へ入っていきました。静かに卵を転がします。もし誰かがいて、この卵が見つかってしまったのなら大変です。きっと持って行かれてしまうでしょう。この卵はもう、自分のものなのに。  少し考えた末、猫はまず、自分一匹で廃屋の中を調べることにしました。忍び足で辺りを探ります。奥の部屋から物音がします。 「あの泣き虫坊やがいたのなら、今日こそ追い出してやろう、なに、泣き虫だ、引っかいてやれば二度と来ないだろう。ここは私の縄張りなのだ」  そうして奥の部屋に向かいましたが、そこには誰もいませんでした。ただ壊れかけの窓が風にカタカタ揺れていて、どうやらこれが音を出していたようです。  なんだ、紛らわしい、と猫は竜の卵のもとへ戻りましたが。 「卵がない! 一体どこに……ああ私の最強の下僕計画が……一体誰が勝手に持って行ったんだ!」
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