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* * *
間抜けな『卵守』の竜が目を覚ましたのは、卵が盗まれてから数日後のことでした。竜にとって、数日の睡眠とは珍しいことではありません。ただ『卵守』の役目を背負った竜であったのなら、怠慢と言えました。
「どうしよう! 預かっていた卵がない!」
竜は慌てて辺りを探し回りました。近くに盗賊達の足跡があったのですが、間抜けな竜は気付くことができませんでした。
「もう少しで生まれそうだったけど、もしかして、転がっていってしまったかな? それとももう……」
いくら探しても金色の輝きは見つかりません。竜は半ばパニックになりながらも、探す範囲を広げます――卵がなくなったと仲間に知られたら、みんなが悲しんでしまいます。
やがて、金色の輝きを見つけました。それは竜の巣からだいぶ離れた、森の近くでした。
「ああよかった! こんなところに! ……でもこれ、あの卵と同じ卵かな?」
『卵守』の竜は悩みます。いくらなんでも、巣から遠すぎるのです。転がってここまで来たとは思えません。もしかすると、別の卵かもしれません――もっとも、同じ卵なのですが。けれども間抜けな竜には、この卵があの卵なのか、別の卵なのか、わからなかったのです。
近くに自分以外の『卵守』や竜の姿は……ありません。もしこれが他の誰かの卵であれば、誰かがいるはずなのですが。
間抜けな竜は、考えた末に決めました。
「よし、この卵を、あの卵と思って持って帰ろう。他の誰かの卵だったら盗んだことになるけど……誰の姿もないし、大丈夫だろう。そもそもこんな場所に卵を置いておいては危ない!」
* * *
無事に巣に戻った竜の卵は、その後孵化しました。
元気な竜の男の子が生まれましたが、彼は少し、不思議な竜でした。
まず彼は、歌や踊りが上手でした。
「ねえ、一体どこで教えてもらったの?」
彼と同じ子竜が尋ねれば、
「見てたのさ、盗賊達が歌って踊るところを。それを見て、盗んだのさ」
また彼は、空を飛ぶのも得意でした。教えてもらっていないにもかかわらず、彼はすいすいと空を飛びました。
「君に空の飛び方を教えたのは誰だい?」
「誰でもないよ。ただカラス達が飛んでるのを見ててね、コツなんかも盗み聞きしたんだ」
そして彼は、狩りも上手。仲間の動きを見て、あわせて動くことが得意なだけでなく、静かに獲物に忍び寄ることもできました。
「人間と犬が狩りをするのを見ていてね、そのやり方を真似してやったのさ。あとは猫の歩き方もこっそり見ててね、その技術を盗んでやったのさ」
まだ幼い彼は、人間をほとんど見たことがないはずでした。けれどもやはり不思議なことに、様々なことを知っているのです。一体どこで覚えてきたのでしょう、人間の料理のやり方も知っていました。
「ごらん、これがあの街の料理店のスープだよ。レシピは門外不出なんだって。どうして僕が知ってるかだって? 盗み見てたからさ」
不思議な竜ですが、みんなに頼りにされました。彼は薬草についても知っていましたから。
「あの森の白い花が薬になるなんて知らなかったわ!」
病気から快復した竜が嬉しそうに声を上げます。不思議な竜は、
「こっそり聞いてたんだ。まさか盗み聞きされてるなんて思ってなかっただろうね……でも、薬になるからって、あんまり取りに行っちゃだめだよ。毒があるからやっぱり危険だし、うっかり全部取っちゃったら、なくなっちゃうからね」
本当に奇妙な竜で、果てに、少し怖くなったあの『卵守』が探りをいれるかのように尋ねました。
「どうして君は、色んなことができたり、知ってるんだい?」
子竜は答えます。
「何回も盗まれたから、盗み返しただけだよ! そうそう、僕は『あの卵』であってるから安心してね! あの時僕はまだ卵だったけど、色々外のことがわかってたんだ!」
【竜の卵とたくさんの泥棒 終】
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