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プロローグ
太陽の焼けつく様な暑さと蝉の鳴き声が近くで聞こえる。
時々吹く風すら息が苦しくなる様だった。
横断歩道や近くの道ですら、陽炎で遠くが見えずらく、目的地である図書館までの道のりは遠く感じる。
白と爽やかな檸檬色と淡い青で構成されたワンピースと檸檬色のリボンが付いてる麦わら帽子を被った高校生程の少女――――七瀬 水乃が歩いていた。
チョコレートの様な色合いの髪は肩辺りまでの長さと、段々と意味を成さなくなってきた前髪を留めているヘアピン。
少しつり目がちな同色の瞳。
健康的な程度に少しだけ焼けた肌は汗と共に首に張り付く髪がほんの少し彼女に艶やかな印象を与える。
この暑さの中では、日焼け止めを塗ってまで肩の出るワンピースを着た甲斐はあっただろう。
近くではどこかで風鈴でもぶら下げてるのか、涼しげに音を鳴らしている。
遠くを見ようとして、太陽を遮っていた麦わら帽子を外す。
道のりだけで言えば図書館は、もう少しで着く距離にあった。
手元の先程まで冷たく結露していたスポーツドリンクが生ぬるくなりかけている。
あまりの暑さと眩しさに堪らなくなり、麦わら帽子を被り直す。
涼しい所に行きたいのだろう。
少し早歩きで進み出す。
早く室内に入りたい。
水乃の呟く様な小さな声が聞こえた気がした。
島崎 凪は今朝もいつも通りだった。
自分の部屋で目を覚まして、両親に挨拶をして。
「気が付いたら作りすぎちゃった」と泣き笑いの表情の母さんを宥めて、用意された朝食を食べる。
それから、ニュースを見る。
「今日は午後から雨が降るみたいだ
父さん、念の為に傘を持って行こうね
ご馳走様です
今日も美味しかったよ、母さん」
「凪……」
外に出る準備を整えて、家を出たら水乃を迎えに行く。
これが島崎凪の毎朝のルーティンなのだ。
そしていつもよりも意志を固く持って、凪は待ち人を待ち続けた。
水乃が少し前まで元気が無かった事を思えば、どんなに辛くても大変でも、暑くても外に出てくる今の方がずっとマシな方だと思ってしまうのだから、つくづく島崎凪と言う男は水乃に甘く、弱いのだろう。
彼女の元気な姿を見続けられるのなら、僕の願いなんか叶わなくても……。
凪がそう思ったと同時に、扉がガチャ、と開く音がした。
出てきたのは水乃の母親だった。
この時、凪は一足出遅れたのだと知った。
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