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第2話、9年後僕らは中学生になっていた
あれから九年経ち、僕らは中学の二年の夏休みを迎えていた。
僕は水乃ちゃんと2人だけで海に来ていた。
太陽が焼け付くみたいに暑く、青い海は太陽の光に照らされてキラキラと輝いていた。
風は多少そよ風があったが、太陽のせいで空気ごと温められたのか、熱風が僕らの頬を焦がす様に撫でていた。
僕が水乃ちゃんと見たかった青い海は目の前にあった。
その美しさに見蕩れていると、僕を勢い良く追い越した水乃ちゃんが、興奮したみたいにキラキラと光を反射させた海を背に、僕に両手で掬った海水を勢いよくかけ、とびきり良い笑顔で声をかけてくれる。
「っはー!!気持ちいいねー!凪ー!」
「水乃ちゃん、そんなにはしゃぐと転んじゃうよー」
「ふん!
運動不足の凪と違って私はソフトテニスやってるおかげで運動神経は良い方なんだから別に転んだりなんか――――~~~!!?」
「水乃ちゃん
だ、大丈夫?」
腕を掴もうと、反射的に伸ばした僕の手は空を切った。
その先で水乃ちゃんが転んだ拍子に頭から砂浜に倒れたのは流石に慌てた。
本当は、水乃ちゃんを格好良く助けたかった。
だから、砂浜の小石にでもぶつけて赤くした鼻先をつん、と上げて誤魔化す様に必死な水乃ちゃんに後悔と罪悪感が湧いた。
「い、今のはわざとよ!!
えぇ、そう!!
盛り上げる為にわざと転んであげたのよ!!」
「うん、でもこの辺りの砂浜は時々硝子の破片とかも落ちてて、混ざってるみたいだから気を付けないと――――「う、うっさい!」
水乃ちゃんの慌てた声に僕は仕切り直して、手を差し出す。
今度は優しく。
水乃ちゃんが僕の手を取れる様に。
「ははっ、ほら水乃ちゃん」
「……有り難う」
その後昼食を食べ、浮き輪にがっしりと捕まりながら浮かぶ僕の浮き輪の紐を水乃ちゃんが掴みながら泳いでいた。
ふと、この先の事を考える様に水乃ちゃんがぽつりと、零す。
「はぁ、来年で私達もう中学3年になるのかぁ
色々めんどいな……」
「受験生になるからね
主に勉強が面倒くさいんだね?」
「ふんっ!
成績だけは優秀な凪様には受験なんて楽勝なんでしょうけど!」
わざとらしく顔を反らして拗ねちゃったもん、と教えてくれる可愛い水乃ちゃん。
「成績だけ……って、水乃ちゃんは中々手厳しいね
水乃ちゃんだって運動は得意なんだし、きっと推薦貰えると思うんだけどな
それにほら、大丈夫だよ
僕が水乃ちゃんに勉強を教えてあげるから」
「むっ
お願いします」
拗ねてるのか、素直なのかは分からない。
けれど、僕は水乃ちゃんのこういう一面がとても好きだ。
「クスッ」
少し上からの様な冗談を交えて返しても、水乃ちゃんは怒らなかった。
水乃ちゃんは本当に優しいんだから。
僕は少し呆れた様に笑って、はいはいと答える。
「何、面倒くさくなった?」
水乃ちゃんは僕に少しイタズラっぽく口元を緩めて聞く。
「違うよ」
僕はつい、苦笑してそう返した。
半分だけ、図星だったかもしれないから。
気が付いたら僕らの間に小さな沈黙が流れた。
気まずい雰囲気を払拭したくて色々考えていたら、ふと昔の事を思い出した。
「でも、まさか水乃ちゃんとこうして海に来れるなんて思わなかったな」
「そりゃまぁ、親の許可条件だし
女の子一人で海なんて遠出は危ないんだから、せめて女友達か凪君と一緒に行きなさい!!
って……女友達は良いとして、何で凪まで良いのよ」
呆れ気味に、でも少し嬉しそうに笑う水乃ちゃん。
「う、うーん
親ぐるみの幼馴染みだから、かな?
ほら、よく知ってる人間だから」
僕が水乃ちゃんの御両親に許される理由なんてそれぐらいしか思い浮かばない。
「へぇ、つまり凪は無害認定されてる訳だ
男として終わってない?」
「うぅっ……水乃ちゃんてば、はっきり言うね」
痛いなぁ。
僕だって水乃ちゃんに意識して欲しいのに。
「一応男としてのプライドはあるんだね」
「そりゃ僕だって、水乃ちゃんに
ん?でも、それなら何で僕以外の女の子の友達を誘わなかったの?」
「え?
あー、別に?
なんとなく、だよ」
「なんとなくって……」
「ほ……ほら、休憩終わりっ!!
来年は受験のせいで夏休みなんて丸々潰れるんだから、今年は目一杯楽しんで遊ばないとっ!!」
「あ、水乃ちゃんいきなりっ!!
浮き輪離したら僕溺れちゃうから、待ってー!」
イタズラっぽく笑う水乃ちゃんが海に映えて、頬を染める水乃ちゃんがあまりにも可愛くて思わず心臓が跳ねた。
もしかして水乃ちゃん、覚えててくれたんじゃ……
でも、随分前の約束だから忘れちゃったかな。
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