きみを彩るその色は

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 夏が、嫌いだ。  胸の間にもわっと湿気が溜まっていく。今すぐカーディガンを脱ぎ捨てて、シャツのボタンを全て外してしまいたい。そんな自分を想像して、現実との落差を思い知る。  氷が入ったグラスみたいに、背中に汗が伝う。見えないけどわかる。  我慢できずにわたしはコンビニに飛びこんだ。寒いくらいに効いた冷房。ここは天国だ。  飲み物がぎっしりと詰まった冷蔵庫を開けると、冷気が頬を撫でた。気持ちいい、と口に出しそうになると、奥でペットボトルを補充していた店員さんと目が合い、心臓が跳ねた。  思わず、わたしはダンゴムシみたいに背中を丸めた。  ペットボトルのお茶をひとつ手にして、逃げるようにそこを離れる。お気にいりのぶどうグミを取ってレジへ向かった。  らっしゃいませー、とやる気ゼロの店員さんの声。  財布を取り出そうとすると、鞄の紐が肩から滑り落ちる。慌てて右手で紐を掴み、左手で鞄の中を探った。  財布を手にして顔を上げると、店員さんと目が合う。あっ、と店員さんは短く声を出してから、ほんの少し目を見開いた。わたしは店員さんから目を逸らして、自分の手元だけを見るようにした。こめかみのあたりに汗がぶわっと噴き出て、目からも流れてくるのではないかと思った。実際に目の奥が痛い。  店員さんの物珍しそうな視線が、胸元に刺さる。カーディガンで隠しているけれど、夏になると服の素材が薄くなって、体型がわかりやすくなるのが、心底嫌だ。  まだサンタクロースがいると信じていた年の頃、わたしの身体はひと足先に大人になり始めた。心を置いてきぼりにして、ぐんぐんと先をいく。その結果、薄いカッターシャツのボタンを弾き飛ばしそうな分厚い胸が育っていた。  小学校の卒業アルバムには垢抜けない顔と大人みたいなおっぱいという下手なコラージュみたいな姿が残っている。
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